ライティング初心者がつまずきやすい代表的なポイントといえば「何を書いたらいいのか分からない」でしょう。情報が出てこない、他人の目が気になるなど、書けない理由はさまざまです。
頑張って文章を書いても、読まれないと凹みます。初心者が陥る「書けない読まれない問題」を解決できれば、モチベーションが高まり、文章嫌いの人口も減ることでしょう。
「書けない読まれない問題」を解決する第一歩は、書けない理由と読まれない理由をはっきりさせることです。この記事では、山口拓朗 著『9マスで悩まず書ける文章術』を基に、読まれる文章の書き方を解説します。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4862806767
サイバーウェーブでは「スキルアップ支援制度」として、社員が自己研鑽のための書籍購入を補助する制度があります。『9マスで悩まず書ける文章術』はこの制度を利用して手にしました。
なぜ、私たちはライティングが苦手なのか
なぜ、私たちはライティングに苦手意識を持っているのでしょうか。私たちが初めて「文章が書けない」と自覚したのは、おそらく小学校の読書感想文です。
読書感想文と対峙した小学生は「これを書いたら先生に指摘されるのでは」「これを書いたら同級生に笑われるのでは」と、必要以上に他人の目を気にします。
「変なことを書いて恥をかいたらどうしよう」という日本人特有の感覚が、私たちをライティングから遠ざけているのでしょう。
ライティングにおいて重要なのは「他人と横並びの文章を書くメリットはない」と気付くことです。
書き方に好き嫌いはあるものの「これが正解!」という書き方はありません。まったく同じ内容の文章が2つあったら、名のある書き手や大手メディアに数字を取られます。
私たちには、オリジナリティのある文章を書くことが求められているのです。心にブレーキが掛かっている状態では、横並びの文章から脱することはできません。
自分の意見を表明して叩かれたとしても、刺さる人はインターネットのどこかに必ず存在します。他人の目を気にせず「誰かに刺さればいいな」と気楽に書きましょう。
「読まれる文章」とは
「読まれる文章」とは、以下の2つがセットになった文章です。
- 客観的な情報
- 主観的な情報(意見・感想)
著者は「読まれない文章は、どちらかが欠けている」と主張しています。文章Aと文章Bのうち、あなたはどちらの文章に惹かれるでしょうか。
読者の99%は、素っ気ない文章Aよりも具体的に書かれた文章Bに惹かれるはずです。情報や感想が具体的に書かれているほど、読者を書き手の世界に引き込みやすくなります。
文章Aのような素っ気ない文章を読んだ読者は「旨いのは分かるけど、もっと深掘りしてよ」と思うことでしょう。
しかし、文章Bのような具体的な内容であれば、読者は「そうそう、こういう情報が欲しいんだよ」と満足してくれるのです。
情報量の多い具体的な文章を書くためには、質の高い情報が欠かせません。脳内から質の高い情報を集める方法として、著者は「9マス自問自答法」を挙げています。
9つの質問で自問自答しよう
本書の目玉である「9マス自問自答法」は、9個の質問を自分に投げかける方法です。
なぜ9個なのか
人には「枠があると埋めたくなる」という習性があるからです。4マスや6マスでは、文章作成に必要な情報を洗い出すツールとしては少し物足りません。しかし、12マスや16マスでは、書くのが大変そうと尻込みしてしまいます。9マスは、過不足のない絶妙なマス目なのです。出典:『9マスで悩まず書ける文章術』P4より(一部改変)
9マス自問自答法のやり方は、紙に3×3のマスを書き、1マスにつき1問を設定します。設定する質問は、ベース文章に対する読者のツッコミから考えましょう。
ベース文章とは、前述の素っ気ない文章Aです。素っ気ない文章を読んだ人が抱くであろうツッコミを9つ考え、マスに書いていきます。
「ランチに食べたもの」というテーマで、食レポ記事を書くとしましょう。ベースとなる文章は「ランチを食べに行った。とても美味しかった」です。
読者には食べたものが分からないため、質問1は「ランチに何を食べた?」になります。(例:ラーメン)しかし、料理名を答えただけでは店舗名が分かりません。
店舗名をはっきりさせたいことから、質問2は「ラーメン店の名前は?」です。店舗の立地が読者に伝わるように「質問3:店舗の立地は?」といった質問も加えましょう。
店舗に関連した情報を決めたら、次はラーメンの見た目や味に関連した質問を決めます。
- 質問4:ラーメンの見た目は?
- 質問5:スープの味や舌触りは?
- 質問6:ラーメンのトッピングは?
記事に感想を加えるためには、主観的な情報が欠かせません。最後に、脳内から主観的な情報を引き出す質問を決めましょう。
- 質問7:他に特徴は?
- 質問8:今まで食べた中で何位?
- 質問9:満足度はどのくらい?
質問を考えるときは「質問1を考える → 回答 →質問2を考える→ 回答……」と順番に進めてください。直前の答え次第で、次にする(したい)質問の内容が変わることがあります。
9マスで確実に情報をアウトプットするためには、以下の2つを使い分けましょう。
- ベーシック質問
- スコップ質問
「ベーシック質問」と「スコップ質問」
「9マス自問自答法」で使う質問には、以下の2つがあります。
- ベーシック質問
- スコップ質問
前者はテーマに関する基本的な情報、後者はより具体的な情報を集める質問です。文章作成には、ベーシック質問とスコップ質問の両方が欠かせません。
ラーメンの店舗名が曖昧だと、読者は「これ、どこの豚骨醤油ラーメン?」と疑問を抱きます。まずは、ベーシック質問で5W1Hの基本情報を集めましょう。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(だれが)
- What(なにを)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
しかし、客観的な情報を並べただけでは、食レポ記事としては不十分です。内容に奥行きや幅が欲しくなったら、スコップ質問に切り替えます。
- ラーメンの見た目は?
- スープの味や舌触りは?
- ラーメンのトッピングは?
- 今まで食べた中で何位?
- ラーメンの満足度は?
具体的な情報を引き出すためには、スコップ質問の内容を具体的にしましょう。「ラーメンのスープは?」という質問は、ざっくりしていて具体的に答えづらいです。
「スープの味や舌触りは?」と質問することで、脳内から具体的な情報を引き出せるようになります。
質問に詰まったら、以下の「7W3H」を活用しましょう。
Who(だれが) | 担当、分担、主体 |
What(なにを) | 目的、目標、内容 |
When(いつ) | 期限、時期、日程、時間 |
Where(どこで) | 場所、行き先 |
Why(なぜ) | 理由、根拠 |
Whom(だれに) | 対象 |
Which(どっちを) | 選択 |
How(どのように) | 方法、手段 |
How many(どのくらい) | 数量 |
How much(いくら) | 金額、費用 |
ほとんどの質問の根底にあるのは、7W3Hのどれかです。7W3Hを意識することで、質問の引き出しを増やせます。
読まれる文章には「Why」がある
著者は「Whyは7W3Hの中で特に使える」と主張しています。理由や根拠、動機などを問うWhyは、物事の核心に迫れるのです。
「AがBである3つの理由」というタイトルを見たら、興味がなくとも1ミリは惹かれるでしょう。以下のように「なぜ?」と自問自答することで、物事の核心に迫れます。
- なぜ、引っ越そうと思ったの?
- なぜ、SF作品が好きなの?
- なぜ、今の仕事を選んだの?
「これを書いたら変かな?」と、他人の目を気にする必要はありません。自分の頭の中をそのまま書き出すことが、オリジナリティに繋がるのです。
読者への「プレゼント要素」を加える
著者は「目的を達成できる文章の共通点は、読者にプレゼントを渡す意識だ」と主張しています。文章を書く目的のほとんどは、誰かに何か伝えるためでしょう。
読者にメリットがない・興味を持たれない文章は、目を通してもらえません。読んでもらうためには、読者に「この文章は読む価値がある」と思わせることが重要なのです。
読者の気を引くためには、著者が主張するプレゼント要素が役に立ちます。
- 役に立つ
- 利益になる
- 喜びになる
- 成長に繋がる
- 人生が豊かになる
営業メールを例に、プレゼント要素がない文章とある文章を見てみましょう。例として、弊社の主力製品である「VALUE KIT」の営業メールを考えてみました。まずはプレゼント要素のない文面からです。
プレゼント要素が入っていない営業メール
弊社が開発した発注段階で7割が完成しているプロダクト「VALUE KIT」をお使いいただきたく、ご連絡いたしました。VALUE KITは、弊社の敏腕エンジニアが試行錯誤を重ねて開発したプロダクトです。
20年以上のノウハウを詰め込み、非常に高い完成度を実現しました。ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
上記の営業メールに書かれているのは、自社製品の宣伝です。私たちは「営業メール」と聞くと、上記のような文章をイメージします。
しかし、上記の文面からは、相手にとってのメリット(プレゼント)が読み取れません。あなたにも、営業メールを開いて即ゴミ箱行きにした経験が多々あるでしょう。
プレゼント要素がない文章とは、開いて即ゴミ箱行きにされてしまう文章なのです。本書の目玉である「9マス自問自答法」は、プレゼント要素の洗い出しにも使えます。
3×3マスの中央にテーマを書き、残りのマスにプレゼント要素(相手にとってのメリット)を書いてみましょう。以下は、プレゼント要素がある営業メールに書き直してみた一例です。
弊社が開発した発注段階で7割が完成しているプロダクト「VALUE KIT」をお使いいただきたく、ご連絡いたしました。複数のパーツを組み合わせて使うVALUE KITは、スモールスタートかつ柔軟なカスタマイズが可能です。
プライバシーマークの取得や品質保証(SLA)に準拠しているなど、セキュリティにも力を入れております。残りの3割を開発するだけで済むVALUE KITは、低コスト・短納期を実現しました。
ヒアリングから設計、お見積りまでの費用はいただきません。誠に勝手ながら、一度ご案内の機会をいただければ幸いです。担当者様のご都合の良い日時で、貴社に伺います。ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
プレゼント要素がある営業メールの例は、プレゼント要素が山盛りかつコンパクトにまとまっています。メールを開いた相手のほとんどは「話を聞かないと損するかも」と興味を持ってくれるでしょう。
読まれる文章には、入念な準備も欠かせません。いきなり書き始めると、要点がまとまらなかったり、構成が雑になったりします。文章を書き始める前には、必ず「今ある情報で書いた文章は、読者の興味関心を引けるか」を自問自答しましょう。
速く書けるようになるテンプレート
事前準備を万全にしてもすらすら書けない場合は、テンプレートを使いましょう。テンプレートを使うと、型にはめるだけで脱初心者な文章が書けます。
テンプレートを使ったからといって「テンプレかよ」と読者にバレることはありません。文章のプロにも、テンプレートの使用を否定する人は99%いないでしょう。
9マス自問自答を活かせるテンプレートは、以下の3つです。
- 結論優先型
- 列挙型
- ストーリー型
結論優先型
結論優先型は、物事を理路整然と伝えられるテンプレートです。
- 結論
- 理由・根拠
- 具体例
- 結論
結論優先型テンプレートは、ビジネスからプライベートまで、さまざまなシーンで活躍してくれます。情報が溢れている現代において、結論を先送りした文章はあまり好まれません。
結論をあえて先出しすることで、読者の興味を引き付けられるのです。結論 → 理由・根拠 → 具体例の流れには、説得力を高める効果があります。
人間は、理屈だけで情報を処理できる生き物ではありません。具体例を脳内でイメージさせることで、理解・納得を促します。
結論優先型は、文章術の基礎ともいえる汎用性の高いテンプレートです。まずは、結論優先型テンプレートをマスターしましょう。
結論優先型をマスターすると、間に列挙型やストーリー型を入れられるようになります。
結論優先型×列挙型
- 結論
- 理由
- 列挙1
- 列挙2
- 列挙3
- 結論
結論優先型×ストーリー型
- 結論
- 理由
- ストーリー
- 結論
列挙型
列挙型は、読者の理解度を下げずに入り組んだ文章が書けるテンプレートです。
- 全貌
- 列挙1
- 列挙2
- 列挙3
- まとめ
列挙型テンプレートは、メールやビジネス文書、SNSまでさまざまなシーンで活躍してくれます。列挙型で一度に挙げる情報量は、3つから5つに抑えましょう。
人間の脳は、一度に大量の情報を処理できるように作られていません。入り組んだ文章が得意な列挙型でも、入り組みすぎると逆効果になります。
あなたにも、一度にあれこれ説明されて「ちょっと待って」となった経験があるでしょう。伝える情報量をあえて絞ることも、分かりやすい文章を書くコツなのです。
ストーリー型
ストーリー型は、読者に共感してもらい行動を促す文章のテンプレートです。
- 発端
- 転機
- 変化・成長
- 未来
共感の時代と言われる近年では「ターゲットの共感を得る」という戦術が求められます。人間という感情で行動する生き物は、理屈やデータだけでは行動してくれません。
人間は、感情が動いてはじめて、実際に行動する生き物なのです。読者の感情移入を誘うためには、冒頭で「どん底(失敗や弱みの象徴)」を表現しましょう。
スタートとゴールの落差が大きいほど、得られる共感や感動も大きくなります。怪しい広告にありがちな「リボ払いで破産寸前の私が、半年で1000万稼いだ方法!」は、まさにストーリー型の典型例です。
「効果を実感できたダイエット方法」を例に、9マス自問自答法で情報を洗い出してみました。3×3マスの中央にテーマを書き、他のマスに質問と答えを書く流れです。
質問 | 答え |
以前の自分は?(ベーシック質問) | 太っているのがコンプレックス |
ダイエット方法との出会いは?(ベーシック質問) | アルバイトでお笑い芸人をしているボディビルダーのYouTubeを見た |
ダイエット方法の具体的な内容は?(スコップ質問) | 筋トレで代謝を上げつつ、摂取カロリーを減らす |
自分なりに工夫した点は?(スコップ質問) | 意志力に頼らず、機械的に続けた。有酸素運動はキツいため、あえてスルーした |
繰り返す中で、どんな変化が見られた?(スコップ質問) | だんだんと、筋肉の成長や脂肪の減りを実感できるようになった |
繰り返す中で、どんな変化が見られた?(スコップ質問) | 家族から「痩せた?」と言われるようになり、成果が顕著に表れはじめた |
実践したダイエット方法の良いところは?(スコップ質問) | 挫折の原因である有酸素運動をスルーし、モチベを維持できる |
実践したダイエット方法の悪いところは?(スコップ質問) | 有酸素運動を行わないため、脂肪の減りがとてつもなく遅い |
自問自答で情報を洗い出せたら、テンプレートに沿って書き始めます。
「弱い自分」をあえて見せなければ、読者はストーリーに共感・感動してくれません。「弱い自分」を見せずに「強い自分」を見せるストーリーは、ただの自慢話です。
「代謝が上がることで痩せやすくなる」と理屈で説明したとしても、大きな共感や感動は生まれないでしょう。壮大なストーリーでなくとも、過去と未来の落差さえ演出すれば文章として成り立ちます。
ストーリー型の文章は「読者の共感・感動を誘い、行動させる」という恐るべき威力を秘めているのです。
「読まれる文章」で脱初心者
私たちがライティングに苦手意識を持っているのは、他人の目を気にしているからです。書き方に好き嫌いはあるものの「これが正解!」という書き方はありません。
まったく同じ内容の文章が2つあったら、名のある書き手や大手メディアに数字を取られます。私たちには、オリジナリティのある文章を書くことが求められているのです。他人の目を気にせず「誰かに刺さればいいな」と気楽に書きましょう。
「読まれる文章」には、以下の2つがセットになっています。
- 客観的な情報
- 主観的な情報(意見・感想)
著者は「読まれない文章は、どちらかが欠けている」と主張していました。読者を満足させる文章は、上記の2つがセットになった情報量の多い文章です。
脳内から情報量を引き出すときは「9マス自問自答法」を活用しましょう。3×3のマスに質問を書き、順番に答えていきます。質問の内容は、文章を読んだ読者からのツッコミです。
素っ気ない文章では、読者を満足させることはできません。ツッコミに答える中で、素っ気ない文章に情報が足されていきます。
質問に詰まったら「スコップ質問」で内容を深掘りしましょう。スコップ質問にも詰まったら、以下の「7W3H」を参考にしてください。
文章で目的を達成するためには、読者へのプレゼント要素が欠かせません。営業メールにプレゼントがない場合、開いて即ゴミ箱行きにされてしまいます。
プレゼント要素とは、読者にメリットがある(興味を引ける)情報です。文章を読んでもらうためには、読者に「読まないと損かも?」と思わせる情報を入れましょう。
事前準備を万全にしてもすらすら書けない場合は、テンプレートが役に立ちます。9マス自問自答を活かせるテンプレートは、以下の3つです。
- 結論優先型
- 列挙型
- ストーリー型
テンプレートにはそれぞれ特徴があるため、臨機応変に使い分けましょう。まずは、基礎である結論優先型の習得をおすすめします。
山口拓朗 著『9マスで悩まず書ける文章術』には、初心者が脱初心者するために必要な情報がまとめられていました。この記事で紹介した内容は、本書の極一部です。
本書の後半では、文章力を上げるトレーニング方法が100ページほど紹介されています。文章力を上げて脱初心者したい方は、ぜひ山口拓朗 著『9マスで悩まず書ける文章術』を手に取ってみてはいかがでしょうか。
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