自宅で開講したサロンを中心に、自らのスキルを活かして活躍する「サロネーゼ」という女性たちをご存じだろうか? サロネーゼと聞くと、イタリアン、フランス料理など、食のジャンルに精通した先生を思い浮かべるが、最近ではアイシングクッキーやマカロンアートといったデザイン性に富んだスイーツデコレーションを教える女性たちも増えている。
今回登場するのは、一般社団法人 Artist Link Associate(略称ALA)。「美味しい」「可愛い」「素敵」をモットーに、スイーツデコレーションの資格取得ができる講座やレシピ、デザインを多数販売する法人だ。
現在ALAで受講する会員数は累計1500名。全国で活躍する認定講師は約400 名もいる。講座数は現在66。1DAYレッスンもあれば、3日間にわたる資格取得講座もある。
好きなことを活かして、味もデザインも抜群のスイーツ教室を開く。そのような認定講師を多数送り出すALAから、理事で講師も務める大林 路子氏、事務局の向 万帆氏と石原 久美子氏に、サイバーウェーブをパートナーとして選んだ理由を伺った。(以下、敬称略)
スイーツデコレーションのライセンス発行を始めたのは、元駐在員の妻たちだった
―― ALAさん設立の背景を教えてください。
大林:向、石原、私を含めた創業メンバーは、2013年に上海でそれぞれ駐在員の妻として出会いました。配偶者ビザでお仕事のできない駐在員の妻たちは、皆、現地で時間を持て余していたんです。その時に駐在員家庭の間で流行ったのが、現在ALAの代表を務める八木 智美のアイシングクッキー講座でした。
子どもをインターナショナルスクールに通わせているご家庭では、カラフルなアイシングのカップケーキなどが各国のご家族にも喜ばれるそうなんです。向も石原も私もデザイン性に長けた八木のレッスンに惹かれ、生徒として参加していました。
石原:中国ではアイシングのクッキーのほかにも、布の端に取り付けられる装飾のタッセルや、クレイで作るマカロンタワーなどのレッスンが盛んに行われていました。駐在員の家は広いため、そういったものを作っても飾る場所があるのですが、日本の狭い家ではそうはいきません。そこで「日本で教えるなら消えてなくなるものがいいよね」ということで、帰国後はスイーツデコレーションにシフトしていきました。
向:また、せっかく会員さんがALAの講座で資格を取得しても、代表の八木が個人ですと、発行された資格を履歴書に書くことはできませんよね? 多くの方にALAの資格を履歴書に書いていただきたくて、2015年に法人化したのはきちんとした証明書をお出しするためでした。
大林:事業が軌道に乗り、2018年から会員様や認定講師の方が急激に増えてきました。
会員名簿を担当する私は、顧客管理の煩雑さに困っていました。というのも、会員の方が手書きで書かれた情報を逐一Excel入力するなどしていたからです。私自身は講師活動やテキスト作成の業務もあるため、とても事務作業が追いつかない。そこで、サロンとECの管理を一元化させ、商品の在庫管理や会員の管理を簡単にできないかと思い、外の会社さんにシステム製作をお願いすることにしました。
Artist Link Associate のスイーツデコレーションの例
毛色の違う3社からサイバーウェーブを選んだポイントとは
―― ALAさんがECサイトのシステム業者を選定する際、海外オフショアや顧問税理士の知り合いの開発会社、サイバーウェーブの3社が候補だったと伺っています。その中でサイバーウェーブを選ばれた理由は、どのようなことだったのでしょうか?
大林:顧問税理士のお知り合いが元SEの方で、打ち合わせもしていました。会員システムはWordPressのプラグインで、ショップはShopifyなどの既存のECサイトを組み合わせることで、低予算で作られるお話でした。しかし、こちらから依頼した内容以上の提案はいただけなかったことと、会社さんではなくお年を召した個人の方でしたのでアフターフォローに懸念を感じました。
個人の方ですと、その方の健康に何かあったときに作業工程が止まってしまう懸念がありました。また、将来的に別の方へ業務を引き継ぐことになった際に、システムが一から全部作り直しになることも頭をよぎりました。サイバーウェーブさんは、必要に応じてシステムをアップデートしていけるというお話でしたので、安心できました。
一番検討していたのは、元SEである夫の元同僚が勤める中国のシステム開発会社でした。社長は日本語の堪能な方で、同時に日本語のできる担当者を2名つけてくださいました。
でもチャットで内容確認をしても、日本語の微妙なニュアンスを汲めているのかが不安で……。あと、中国の会社さんですとデザインが日本人の感性と少しずれているように感じられたのと、納品後のアフターフォローをしていただけないところが気になりました。
梨木:要はシステムを作るだけ作って、「サーバーなどは自分たちで契約してください」ということだったのですね。
大林:そうだったんです。中国の会社さんの基本姿勢は、私が考えてお伝えしたことのみシステムで作るというものでした。でもサイバーウェーブさんとお話しすると、梨木さんは私にない視点で思いも寄らないことを指摘してくださる。だからサイバーウェーブさんにお願いして、本当によかったと思います。
梨木:言われたシステムを作るだけでも、実は特殊能力なんですよね。だからクライアントの方が仰らないものを作らない会社さんは多いと思います。
大林:お話を伺っていくと、サイバーウェーブさんはVALUE KITがあるため開発費は抑えられるとのこと。ショップ込みで、納得のいく金額の見積をいただきました。
向:どうせお金をかけるなら、中途半端なものではなく、きちんとしたシステムを作りたい。だんだん、そういう方向になっていきましたね。
年会費更新1つとっても、世のビジネスの流れを汲むだけで会員間の不公平感を解消できた
――開発期間はどれくらいでしたか?
大林:約10ヵ月間でした。正式にサイバーウェーブさんにお願いしたのは、2020年12月末。実際に稼働したのは2021年10月半ばでしたね。
当初は4月稼働を考えていたんです。会員様の年会費更新日が4月1日というのが、理由だったのですが。でもその期間ではスケジュールが厳しいということで、秋の稼働を目指しました。
また年会費の更新日を毎年4月1日とせずに、システム変更をして入会日から1年後に年会費が更新されるようにしたことは、会員さんにとっても非常によかったと思います。もともと年明け入会の方が年会費を数ヵ月で更新せざるを得ない状況は、会員様の間でも不公平感があったんですね。梨木さんにご提案いただき、世のサブスクリプションサービスに習って変更して正解でした。
梨木:VALUE KITのコンセプトとして「普遍的な価値をご提供する」というのがあります。広く世の中に受け入れられる仕様をシステムの標準にすることで、お客様のビジネスにすばやく価値を届ける考えです。サブスク部品のビジネスルールをご提案するにあたり、AmazonPrimeをはじめ、国内外でサブスク展開する大手企業を6社調べました。どこも入会時に課金させ、次の更新日で課金させる仕組みになっていました。
向:それまでは年会費の支払いは口座振込だけで、しかもメールでご案内をしていたので、うっかり更新を忘れてしまう会員様も多かったんです。しかしサブスクモデルにしたことでクレジットカード決済もできるようになり、会員様も更新しやすくなりました。こちらも個別に連絡や口座管理といった、煩雑化していた作業が解消されました。
常に課題管理をしてくれて、双方の認識を合わせながら開発が進む安心感
――サイバーウェーブをパートナーにしてよかった点を教えてください。
石原:ご一緒してよかった点はたくさんありました。梨木さんはシステムの素人集団である私たちのレベルまで降りて、寄り添って提案してくださいました。システム会社さんというと、「わからない話をされて、上手く丸め込まれてしまうのでは」という不安が多少なりともありましたので、その懸念が払拭されましたね。
大林:あと私たちがふわっとした伝え方をしたとしても、梨木さんはそれを論理的に噛み砕いてエンジニアの方に伝えてくださる。私たちも梨木さんにお話しすると問題点が明確になりましたし、今やるべき課題をいつもシェアしてくださったので、すごく安心感がありました。
――どのように課題がシェアされていたんですか?
梨木:Googleスプレッドシートなどで課題管理をしました。チャットや口頭ですと、お互いどうしても忘れてしまいますので。
大林:「サイバーウェーブのどの方がA作業をしている」など、細かい部分も共有してくださいましたね。
梨木:システムを形にするためには、クライアントの方との情報共有が大事なんです。ALAさんに課題を認識していただいた上で、弊社から解決案をご提案し、どの方針にしたいかを決めていただく。クライアントの方に意思決定をいただくことでプロジェクトが前に進んでいきます。お互いの認識合わせをするために、課題管理表をALAさんからも常に見える状態にしました。
また週1回定例会を行って、課題の読み合わせをしましたよね。「A課題を解決するにはB案があります」などと、私どもからも提示をしていました。
向:今まで内部の人間だけで仕事をしてきたので、客観的にALAの業務を眺めたことがありませんでした。サイバーウェーブさんと開発を進めていくうちに、システムに組み込むだけでなく「この業務は必要なかった」などと、社全体の業務効率化につながりましたね。
大林: ALAは各人が思いついたことをすぐに進められる事業のスピード感がある反面、その場その場で業務を増やしたため、多くの作業が煩雑化していました。特に会員管理やサイトの見せ方などが後回しになっていたんです。
サイバーウェーブさんにショップページをお願いするために、商品写真を撮ったり、説明文を書いたりするなどの初期の作業はすごく大変でしたが、その分仕事の棚卸しができました。会員様も画面で商品写真を見ながらだと、やはり買ってくださる。これはありがたかったですね。
梨木:自分たちだけで業務をしていると、第三者的な視点で見られないことはありますよね。せっかくこういった仕組みを作られるタイミングでしたので、できるだけ業務もシステム構築もシンプルにしたい。シンプルにすれば、それだけビジネスが伸びますからね。
石原:あと梨木さんに「言葉の定義が大事」と言われたことも印象的でした。社内でも言葉の定義の捉え方が個々人で微妙に違っていたことも、今回発覚しましたね。
――具体的にどのような言葉の定義がなされたんですか?
大林: ALAでは資格に関する「ライセンス」と「ディプロマ」という言葉を使い分けています。「ライセンス」とは単発レッスンで得られる資格、「ディプロマ」は認定講師講座で講師になれる資格です。
社内では2つの用語の違いは共通認識でしたが、梨木さんに質問を受けて初めて第三者の視点に気づかされたと言いますか。「ライセンス」と「ディプロマ」の差が一般的に見てもわかるようにするなど、様々な気づきがありました。
理事でもあり講師でもある大林氏が作られた「ヴィーガンシフォンフラワーケーキ」。他にはない卵・乳製品不使用のオリジナルレシピで、お花の部分はあんこと豆乳のクリームを口金で絞ったもの
折しもコロナ禍でグッと伸びたオンライン講座。今後は海外展開も
――サイバーウェーブ導入後に、事業に変化はありましたか?
大林:まだ稼働して1カ月ですが、ECサイトの見やすさから、たくさんの会員様にご利用いただいています。
向:1ヵ月で注文は130件を超えました。
石原: ALAのショップ注文は、基本レッスンを発表したタイミングで伸びるんです。ECサイトができたことで人気の商品なども把握しやすくなり、最近では、伸びる商品と伸びない商品の見極めもできるようになってきました。今後はヴィーガンをはじめとした新講座もたくさんの方に受講いただけるよう、期待したいところですね。
大林:大きく変わったことといえば、煩雑な業務がなくなったことで、今までできなかった動画レッスンなどが販売しやすくなりました。
折しもコロナ禍で、会員の皆様もネットショップを利用したり、オンラインレッスンを受けたりすることに抵抗がなくなってきました。オンライン講座ですと場所を問わずに受けられるので、ALAもコロナを機に全国区になった気がします。オンラインで大人気となった講師の方もいらっしゃいますね。
梨木:オンラインに強い人気講師の方が出てこられたんですね。だとしたら、その人気講師が他の先生たちに向けて、オンライン上の技を伝授するような講座があっても面白そうです。
あとALAさんの場合は情報発信が講師の先生ごとに行われているので、その発信の仕組みを束ねるといいかもしれません。利用される方の裾野も広くなり、講師になる方も増えていきそうです。
――最後に、ALAさんが今後チャレンジしたいことを教えてください。
石原:スイーツの流行を追うために常にInstagramなどの最新情報を見ていると、海外在住の先生とのオンラインレッスンも気軽に出来そうな気がするんですよね。
向:今はSNSで全世界の人と繋がれるので、中国語も英語も堪能なALAのメンバーの力を駆使して、今後は海外の方のレッスンもできたらいいですよね。
大林:それこそ中国の方を取り込んだら、すごいことになりそう。和菓子は今、世界で大人気ですから。
梨木:和菓子が好きなセレブやインスタグラマーの方にALAさんの活動に言及していただくための広報活動なども、戦略的に進めていけたらいいですよね。
ALAさんはフェーズ1の段階がひとまず落ち着きました。今後はさらに売上を伸ばすための定点観測を続けて、年間で売上や結果がどうなったのかを見ていきたいですよね。もっと売上を上げる仕組みなどを、今後も一緒に考えていきたいですね。
向:そう、「一緒に成長していきましょう」という梨木さんの言葉が、開発の過程ですごく印象に残っているんですよ。事業規模はまだまだ小さいALAですが、扱う内容は大きな規模になる可能性を秘めていると思うんです。
大林:そうですよ。スイーツデコレーション業界は、まだまだ夢がありますよ!
(取材: 2021年11月)
【中央左】サイバーウェーブ 代表取締役 梨木 繁幸
【中央右】一般社団法人 Artist Link Associate 理事講師・システム責任者 大林 路子氏
【右】一般社団法人 Artist Link Associate 事務局 石原 久美子氏