70%。この数字は、最新の研究が証明したDXの失敗率です。80%と見積もっている研究もあります。なぜ、DXに挑んだ企業の70%は失敗してしまうのでしょうか。
最初から失敗させるつもりでDXに取り組む企業は存在しません。DXに挑んだ企業は、成功させるために莫大なリソースを投下しました。
莫大なリソースを投下したにもかかわらず、70%が失敗してしまうのです。日本企業には、生き残りをかけたDXの推進が求められています。
企業の存続がかかっている以上、致命的な失敗はできません。致命的な失敗を避けるためには、対策を知ることから始めましょう。
この記事では、DXが陥る失敗パターンや成功に導く有力な理論を解説します。
DXが陥る3つの失敗パターン
DXの主な失敗パターンは、以下の3つです。
- 現状の延長で取り組んでいる
- 規律の欠如による離陸の失敗
- 成功の勢いを維持できずに墜落
現状の延長で取り組んでいる
これからのDXは、来る「第四次産業革命」を見据えて取り組まなければなりません。第四次産業革命とは、さまざまなデータを収集し、分析・活用することで新たな経済価値が生まれるという技術革新です。
- 第一次産業革命
- 水力や蒸気機関による工場の機械化
- 第二次産業革命
- 電力による大量生産の実現
- 第三次産業革命
- ロボットやIT技術による自動化
- 第四次産業革命
- データを活用した新たな価値創造
第四次産業革命の背景には、IoTやAIの存在があります。IoT(モノのインターネット)の発展によって、以下のような身の回りの情報がデータとして収集できるようになりました。
- 機械の稼働状況
- 交通機関の混雑状況
- 自然災害の予測
- 個人の健康状態
IoTで集めた大量のデータをAIが分析することで、ビジネスに活用できる新たなアイデアが手に入るのです。IoTとAIを掛け合わせたデータの活用は、さまざまな分野に応用できます。
エネルギーの進化とともに起こった歴代の産業革命は、製造業を中心とした技術革新でした。しかし、汎用性が高いIoT×AIは活躍の場を選びません。
インターネットがあれば使えるIoT×AIを活用できない分野は存在しないと言っても良いでしょう。さまざまな分野でデータの活用が進むと、10年後には新たなビジネスモデルが主流になると言われています。
馬車が自動車になった第二次産業革命のように、競争環境のルールがガラッと変わるのです。1900年のニューヨーク5番街と1913年のニューヨーク5番街の風景をご覧ください。
第二次産業革命の直後である1900年は、まだ馬車が走っています。しかし、世界初の自動車である「T型フォード」が発売された5年後、1913年に馬車の姿はありません。
出典:Business Insider『5th Avenue, 1900 Vs. 1913』
出典:Business Insider『5th Avenue, 1900 Vs. 1913』
わずか13年で馬車というビジネスモデルが淘汰されてしまったのです。当時、馬車という古いルールに固執した企業は、自動車を前にことごとく倒産しました。
今ある市場の寿命は、残り10年と言っても過言ではありません。ITの進化が引き起こす第四次産業革命は、さまざまなテクノロジーが同時に変革の波を起こすと言われています。
来る第四次産業革命で生き残る企業は、新たな社会システムを創る側に回った企業です。
規律の欠如による離陸の失敗
DXに限らず、プロジェクトは最初の一歩が肝心です。スタートダッシュでつまづくと、プロジェクトは離陸できません。
サルダナ氏が提唱する「規律」は、プロジェクトがスタートダッシュを決めるときに役立ちます。組織内に「規律」を定着させ、スタートダッシュを妨げる小石を排除しましょう。
成功の勢いを維持できずに墜落
プロジェクトの成功は、ゴールではありません。プロジェクトが離陸に成功したあとは、飛行状態を維持する必要があります。
変化を続ける競争環境に適応し、自社のビジネスモデルを維持するのです。急速に変化する時代において、短期的な成功は企業の存続を保証しません。
DXのプロジェクトは、いわばフルマラソンのようなもの。走り続けるためのスタミナ管理が求められます。真の意味でDXを成功させるためには、短期的な戦略よりも長期的な戦略が重要なのです。
DXを成功に導く「5段階モデル」
DXコンサルタントのサルダナ氏によると、DXのプロジェクトは下記の5段階に分けられます。
- ステージ1:基礎
- ステージ2:個別対応
- ステージ3:部分連携
- ステージ4:全体連携
- ステージ5:DNA化
DXの5段階モデルは、正しい最終状態を定義し、自分の立ち位置を知るためのロードマップです。DXのような不確定要素が多いプロジェクトは、闇雲に取り組んで成功するものではありません。
DXの長期的な成功を実現するためには、5段階モデルを規律として定着させる必要があります。
5段階モデルを規律として定着させる
DXのプロジェクトの流れは、航空機の離陸プロセスに似ています。航空機の離陸プロセスは、とても複雑な作業です。
しかし、高度に自動化され、信頼性の低いものでもありません。航空機の離陸が失敗するためには、いくつかの偶然の故障が重なる必要があります。
「スイスチーズ・モデル」をご存知でしょうか。スイスチーズ・モデルとは、航空機メーカーが事故リスクを最小化するために採用している手法です。
不規則に穴が空いたチーズでも、重ね合わせ続けると穴は塞がります。失敗をもたらす要因は、目に見える1つの事象だけではありません。
出典:Ian M. Mackay『The Swiss Cheese Respiratory Virus Defence』
失敗に至るプロセスには、さまざまな要因が複雑に絡み合っているのです。規律として定着した5段階モデルは、スイスチーズ・モデルと同じ働きをしてくれます。
ステージ1:基礎
ステージ1:基礎では、自動化ツールを活用して組織内の業務を自動化します。
- 販売
- 製造
- 財務
業務の自動化は、フォーメーション(変革)ではありません。オートメーション(自動化)やデジタライゼーション(デジタル化)の類です。
しかし、自動化の過程で将来の変革に必要な基礎が整備されます。デジタル技術によるプロセスの自動化は、手作業をデータに変換するときに欠かせません。
ステージ1:基礎をクリアするためのチェックリストは、以下の2つです。
- 献身的なオーナーシップ
- 経営トップが戦略のオーナーシップを感じている
- 反復
- さまざまなアイデアを試し、うまくいったものを展開する
献身的なオーナーシップ
DXのミクロな失敗要因の1つに「リーダーによる過度な権限委譲」が挙げられます。過度な権限委譲は、事態の複雑さを相手に押し付けることになるのです。
リーダーの役割である以下の3つは、原則として誰かに委譲することはできません。
- ビジネスの課題を明確にする
- 課題と戦略を結び付ける
- プロジェクトの壁を打破する
組織内の誰がリーダーを務めるべきかは、自動化プロジェクトの規模によって変わります。小規模な自動化プロジェクトであれば、初級のマネージャーに任せても大丈夫でしょう。
しかし、組織全体が連携するステージ3以降では、企業の経営トップが舵を取らなければなりません。DXを成功させるためには、経営トップのDXに関する理解も求められます。
反復
DXに限らず、プロジェクトの規模が大きくなるほど失敗したときのダメージは大きくなります。DXを成功させるためには、失敗したときのダメージを小さくする対策も欠かせません。
リスクを極限まで小さくするポイントは、個々の作業をできるだけ分割し、過程から学びを得ること。ソフトウェア開発の世界では「アジャイル開発」と呼ばれる手法です。
素早くトライアンドエラーを繰り返し、失敗をもたらす要因を探りましょう。
ステージ2:個別対応
ステージ2:個別対応では、変革に向けた部門単位での戦略を展開します。個々の部門がデジタルの力を活用し、新たなビジネスモデルを生み出すのです。
- 事業部が「EC」を活用し、製品を消費者に直接販売する
- 製造部が「IoT」を活用し、製造や物流管理のあり方を大きく変える
- 財務部が「ブロックチェーン」を活用し、国をまたいだ取引の会計方法を一変させる
ステージ2:個別対応をクリアするためには、以下の2つをチェックしましょう。
- 権限強化
- リーダーに十分な権限を与える
- レバレッジの選択
- デジタル技術が真価を発揮する分野を戦略的に選ぶ
権限強化
DXの成否は、舵を取るリーダーの裁量に懸かっています。リーダーが大胆な意思決定を下すには、安心してリスクを取れる環境が必要です。
リスクを取り続けられる環境作りには、経営層の関与が欠かせません。金銭的な支援やコミットメントなど、リーダーへのサポート体制を整えましょう。
レバレッジの選択
DXを成功させるためには、デジタル技術の使い所が重要です。デジタル技術が真価を発揮できるタイミングを「デジタル・レバレッジポイント」と呼びます。
デジタル・レバレッジポイントを特定するためには、以下の3ステップを活用しましょう。
- 自社の強みや課題、チャンスを考える
- デジタル技術の可能性を理解する
- 1の結果を2のアイデアに落とし込む
デジタル・レバレッジポイントは、企業の内部でも外部でも構いません。以下の3つは、DXの賭けを内部の能力に対して行った事例です。
- 物流の高度化(Amazon)
- 研究開発の強化(Intel)
- サプライチェーンの強化(Apple)
デジタル・レバレッジポイントは、企業によって異なります。競合他社や他業界のデジタル・レバレッジポイントが自社に当てはまるとは限りません。
ステージ3:部分連携
ステージ3:部分連携では、組織全体の変革に向けて部門間の連携を強化します。企業のトップがデジタル技術の力を認識し、未来に向けたビジョンを明確にする段階です。
ステージ3:部分連携をクリアするためには、以下の2つをチェックしましょう。
- 効率的な変革モデル
- 組織全体を変革するために効果的な戦略を選ぶ
- 戦略の充足性
- デジタル戦略が十分化どうかをテストする
効率的な変革モデル
DXのステージ3における主な失敗要因は「チェンジマネジメント」です。チェンジマネジメントとは、変化を受け入れるためのマネジメント手法を指します。
人間は、変化の重要性を理解していてもなかなか受け入れられません。DXを成功させるためには、変化を受け入れる体制が必要です。
チェンジマネジメントを成功させるポイントは、変化を促す戦略を考えてから変化を設計すること。
- ゴールを設定する
- 適切な戦略を選択する
- 変化を促す計画を考える
チェンジマネジメントの戦略には、以下の3つがあります。
- 自然発生的変化
- 強制的変化
- エッジ組織
以下の3つが当てはまる組織には、自然発生的変化がおすすめです。
- 時間に余裕がある
- 能力に問題がない
- シンプルな変化が目標
自然発生的変化では、以下の4つを実施しましょう。
- 内部でDXの目標を設定する
- 必要な機能を構築・購入する
- 組織を教育する
- マネジメント体制を構築する
以下の2つが当てはまる組織の場合、自然発生的変化は使えません。
- 時間に余裕がない
- 変化に抵抗を持っている
自然発生的変化がうまくいかない組織には、エッジ組織をおすすめします。エッジ組織は、知識や能力をエッジ(チャレンジ精神)に分配し、自由な変革を促す戦略です。
行動の自由が与えられない組織の場合、エッジ組織は使えません。以下の3つがすべて当てはまる組織には、強制的変化をおすすめします。
- 能力に問題がある
- 時間に余裕がない
- 変化に抵抗がある
強制的変化は、外部の事業体を買収したりパートナーシップを結んだりする戦略です。買収関連の変化があるため、リスクは小さくありません。
しかし、新しい組織体制を素早く立ち上げることができます。組織に合わせた戦略を選び、チェンジマネジメントを成功させましょう。
戦略の充足性
DXのプロジェクトは、不確定要素との戦いです。プロジェクトの成功率を上げるためには、どこかで大きな賭けをしなければなりません。
金融の世界で有名な「ポートフォリオ効果」は、DXのプロジェクトにも通用します。ポートフォリオ効果とは、以下の2つを組み合わせて全体のリスクバランスを取る手法。
- 値動きが大きい銘柄
- 値動きが小さい銘柄
DXのような大胆な賭けは、失敗したときのダメージが大きいです。大胆な賭けと確実な賭けを組み合わせることで、受けたダメージを相殺できます。
DXのプロジェクト構成を決めるときは「ポートフォリオ効果」を意識しましょう。
ステージ4:全体連携
ステージ4:全体連携」では、DXに向けて組織全体で戦略を展開します。組織全体が連携しているかつ新しいビジネスモデルが完全に定着している状態です。
しかし、ステージ4:全体連携はゴールではありません。新たなテクノロジーやライバルが生まれれば、変化に飲み込まれてしまいます。
ステージ4:全体連携をクリアするためのチェックリストは、以下の2つです。
- デジタルの再編成
- デジタルを前提に組織を再編成する
- 知識のアップデート
- リーダーがデジタルの最先端を常に把握する
デジタルの再編成
DXを実現したデジタルネイティブ企業は、デジタルを前提とした組織構造が特徴です。既存の企業がデジタルネイティブ企業へ進化するには、何を意識すれば良いのでしょうか。
デジタルネイティブ企業は、ITを「業務を実現する道具」と考えるだけではなく、ITそのものをビジネスの基盤としています。ITの歴史的な役割は、不可能を可能にする手段です。
しかし、不可能を可能にする手段としての役割は成熟してしまいました。今、ITには「0を1にするもの」ではなく「1を10にするもの」としての役割が求められています。
ITが持つ「1を10にするもの」としての役割を活かすためには、組織全体のアップデートが必要です。特に、従業員のデジタルスキルの再教育には力を入れましょう。
ITは、単体で仕事をする魔法の道具ではありません。ITが仕事をするためには、指示を出す人間が必要です。
新しい技術を扱う人間には、新しい知識が求められます。どれだけ優れた最新技術でも、扱う側の知識が古くては真価を発揮できません。
デジタルスキルの再教育は、DXの成功に直結する効果的な投資です。
知識のアップデート
ITに関する知識のアップデートは、DXの成功に必須です。しかし、ITに関するすべての情報を吸収するのは現実的ではありません。
知識をアップデートするときには、情報の取捨選択が求められます。ITに関する最新の情報を効率良く得るためには、3つの原則を意識しましょう。
- 実用化されたイノベーションにのみ投資する
- 未来の技術を待たず今あるものを活かす
- すぐに効果が得られる「使い捨て」を探す
実践的な知識のアップデートは、時間のかかることではありません。リーダーの日々のルーティンに組み込むことができます。
- 経営幹部に向けた学習機会を用意する
- 投資家やスタートアップ企業と提携する
- 外部の専門家を活用する
- 専門知識を持ったユーザーを活用する
ステージ5:DNA化
ステージ5:DNA化では「デジタル技術で改革を続ける」という組織文化を定着させます。業界のトレンドを主導するイノベーターとしての立ち位置を維持し続けるためです。
DXを永続的なものとするためには、ステージ5:DNA化をクリアしなければなりません。ステージ5:DNA化をクリアするためには、以下の2つをチェックしましょう。
- アジャイル文化
- 変化を支援する企業文化を根付かせる
- 変化を続ける
- デジタルの脅威を評価し、対策を考える
アジャイル文化
テクノロジーの波を乗りこなす永続的なDXを実現するためには、組織内の「アジャイル文化」が必要です。「アジャイル文化」とは、新しいアイデアを歓迎する姿勢を指します。
アジャイル文化の構築は、ステージ4よりも前に始めてステージ5で完成させなければなりません。組織内にアジャイル文化を根付かせるためには、以下の3つを意識しましょう。
- 顧客中心主義の推進
- 共通目的の確立
- 適応を促す環境の構築
「顧客中心主義の推進」は、市場の変化に歩調を合わせるための手段です。顧客中心主義の文化は、良い顧客サービスを維持するために必要な変化を受け入れやすくします。
顧客中心主義がビジネスモデルの全体を支えている状態を目指す必要はありません。「共通目的の確立」は、困難に粘り強く立ち向かうための手段です。
共通目的の確立は、「理念への共感」とも言い換えられます。DXの成功には、同じ価値観(プロジェクトへの熱意)を持った仲間も欠かせません。
「適応を促す環境の構築」は、変革を起こすための文化を根付かせる手段です。変化への適応を促す環境が欠けていると、DXへの抵抗が生まれる可能性があります。
変化を続ける
DXの成功は、ゴールではありません。DXを成功させた後は、業界のリーダーとしての立場を守る必要があります。
業界のリーダーとしての立場を守り続ける方法は、常に変化し続けること。ここまで解説した内容は、常に変化し続けるためのロードマップです。
企業は、常に変化することで競争に打ち勝つことができます。決して立ち止まらず、テクノロジーの波を乗りこなしましょう。
5段階モデルでDXの失敗率を下げよう
DXの失敗率は70%だといわれています。莫大な資金を投じたのにもかかわらず、30%の企業しか成功しないのです。
DXで強固なビジネスモデルを築かない限り、来る第四次産業革命のルール下で生き残ることはできません。DXの成功は、第四次産業革命の舞台から落ちないための命綱になります。
「30%しか成功しない」といわれると、後ずさりする企業は少なくないでしょう。今回ご紹介した「5段階モデル」は、DXを成功に導く有力な理論です。
5段階モデルは、世界最大の一般消費財メーカーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)のDXに貢献しました。
P&Gの具体的な成功事例が知りたい方は、ぜひ、トニー・サルダナ氏の著書『なぜ、DXは失敗するのか?「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデル』をご覧ください。
5段階モデルを活用することで、成功のレールから外れない立ち回りができます。組織の規模によって変わる部分はあるものの、5段階モデルの本質は変わりません。
変化を続けるための土台を早い段階で作り、DXを成功させましょう。
サイバーウェーブは御社のDXを支援します
サイバーウェーブは、発注した段階でシステムの7割が完成している高品質・短納期・柔軟なシステム「VALUE KIT」をベースに、お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。