顧客データ管理のための専用システムの普及が進んでいますが、まだ既存のツールを駆使して対応している企業も少なくありません。
多様なツールがあるなか、顧客データ管理の専用ツール「CRM」を利用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
顧客データ管理の目的や課題から、顧客データ管理に最適な方法を考えていきます。
顧客管理はなぜ必要なのか?
以前より「顧客管理」が重視されるようになりました。
顧客管理の目的とは何か、また、なぜそれが重視されるようになったのか、順に確認します。
顧客管理の目的
顧客管理とは、顧客の属性や過去の購買履歴、商談履歴、キャンペーンに対する反応、アフターサービスの内容など顧客に関するあらゆる情報を一括して管理することです。
顧客管理を行うことによって、顧客のニーズや好みを適切に把握し、それぞれに合わせた提案やアプローチを効率良く行うことが可能になります。それは、顧客と長期的に良好な関係を維持し、リピート客やロイヤルカスタマーを育成することにつながります。結果として、ひとりの顧客が生涯を通してその企業にもたらす利益を意味するLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化し、自社の業績を向上させることが、顧客管理の最終的な目的です。
最近では、CRM(顧客管理システム)のように、マーケティングや営業、アフターサポートまで一括サポートできる専用のシステムも広まりつつあります。
顧客管理が重視されている背景
顧客管理が重視されるようになったのには、次のような背景があります。
- 市場が成熟し、消費者のニーズが多様化してきた
以前は良いものをつくり、適度に宣伝をすれば売れていましたが、最近は「良いもの」の基準が多様化し、ただ漫然と広告を出しても簡単には売れなくなってきました。
- 広告よりも口コミを重視する消費者が増えた
商品を購入する際は、広告や店頭での商品説明よりも、インターネットの口コミや友人の評判を参考にする人が増えてきました。
- 少子高齢化が進み、市場が縮小してきた
買い手がどんどん減っており、これまでのような売上の伸びが見込めない時代になりました。
- 商取引のグローバル化が進み、競合製品が増えてきた
海外製品など低価格の競合製品が、消費者の手に入りやすい時代になりました。
顧客データ管理における課題とポイント
データ管理とは、データを利用しやすい環境を整えることです。
データ保存、修正履歴の保存、検索などがしやすい形式に整えることで、データを活用しやすい状態にします。
顧客データの場合は、関連する複数の部署で異なるシステムに別々に保存されていることも多いでしょう。
情報が分散しているのでは、効率的な活用ができません。
データの分散を防ぐのが顧客データ管理の目的です。
顧客データ管理の課題
顧客データ管理には、次の4つの課題があります。
- データの分散
顧客データは、営業、経理、サポートなど、複数の部署で扱います。
しっかり管理できていない場合は、同じ顧客に関するさまざまな項目のデータが、いくつかのシステムに散在している可能性があります。データが散在していては、顧客データの正確な分析ができません。データのエラーに気づきにくい、必要なデータがすぐに見つからない、一部署で問題が生じているのに他部署では気づいていないといったトラブルの原因にもなります。
顧客管理を一元化してデータを統合することで、データ入力の効率も上がり、トラブル回避につながるでしょう。
- データの重複
関連する部署で異なるツールを使っていれば、同じ顧客に関するデータがそれぞれのツールで重複して入力される可能性があります。
多重入力は非効率であるだけでなく、データの分散と同様のトラブルの原因にもなります。
さらにデータが重複していると、システム上別の顧客であると誤認され、同じアプローチを何度も行ってしまうことにもなりかねません。
- 品質の悪いデータや不要なデータの存在
顧客データが部署ごとに分散していると、顧客についての全体像が見えず、間違ったデータや不要なデータがあっても気づきません。それらが多いと、必要なデータが埋もれてしまい、システム全体が使いにくくなります。
データを一元管理すれば、整理することができます。
- コストの増大
顧客データが分散していると、データを取り出すときも複数のシステムを連携して検索する必要があります。
システムを連携させるには、時間や連携部分の開発コストが必要です。
連携が多いとシステム更新や修正の際に手間がかかり、トラブルのもとになることがあります。また、データが増えると保管場所や管理するスタッフのコストも発生します。
顧客データ管理のポイント
顧客データを有効に管理するためのポイントは、次の2つです。
- データの一元管理と整備
関連部署すべてに散在しているデータを集めて突き合わせ、整理してひとつのデータベースに一元管理します。
最終的にどのような形のデータにするのかは、部署間で話し合いが必要です。
- データの管理・運用部門の決定
データを一元管理する場合は、どの部署が顧客データの管理を行うのかを決定します。
どの部署が担当するにしても、他の部署で使いにくい形になっては本末転倒です。多忙でデータベースの管理があと回しになっても困ります。
どの部門がどのように管理するのか、部署間で話し合っておきましょう。
顧客データ管理ツールのメリットとデメリット
顧客データの管理には、CRM以外にもさまざまなツールが使われています。
それぞれの特徴とメリット・デメリットを紹介します。
Microsoft Excel
多くのオフィスで使われている表計算ソフトです。
計算式やマクロ、VBA(プログラミング言語)を使えば、簡単な顧客管理システムをつくることができます。
メリット
- すでに導入ずみの企業が多いので、あらためてツールを購入するコストがかからない
- 使い慣れているユーザーが多く、社員の抵抗も少ない
- Excelで顧客管理を行うテンプレートも配布されている
デメリット
- 専用ツールではないので、顧客管理に使うためにはマクロやVBAを利用するなどの手間がかかる
- 同じファイルを複数のユーザーで同時に編集することができない
- コピーを作成しやすく、データが散在したり重複したりする危険がある
- すべてのデータを1シートで管理するのは難しく、一方で複数のシートやファイルに分けると使い勝手が悪くなる
- データの件数が多くなると動作が重くなったり、処理できなくなったりする
- 社内にバージョンの違うExcelが存在すると、使えない機能が発生する
ほかにも、編集中のファイルをリアルタイムに確認できない、容易に編集できてセキュリティが弱い、履歴を保存するのが難しい、システムを作成したスタッフが異動すると修正できなくなるなどのデメリットがあります。
会計ソフトウエア
すべての取引を記録しているため、会計ソフトを顧客管理に使っている企業もあります。
メリット
- 顧客の購買行動を細かく記録できる
- 納品・請求処理に強い
デメリット
- マーケティング、営業活動、アフターサービスなど、取引以外の活動をサポートするには不向き
SFA
SFA(Sales Force Automation)は営業支援システムのことで、アプローチや案件、商談を顧客ごとに管理し、営業活動をサポートするためのツールです。受注率アップを目的にしています。
営業活動をサポートするため、顧客データを管理する機能も含まれており、特に顧客ごとの商談や購買履歴の管理に向いています。
メリット
- 営業活動についての記録を取りやすく、営業活動を可視化できる
- 商談のステータスやこれまでのデータをもとにして営業活動をサポートする
- 見積書、納品書、請求書などの書類を発行する機能がある
- モバイル端末で利用できる
デメリット
- 初期費用やランニングコストがかかる
- 情報入力に、時間と手間がかかる
- メールマーケティングやキャンペーン、アプローチのリマインダーなどマーケティング部分はカバーしていない
CRM
CRM(Customer Relationship Management)は正しくは顧客関係管理と訳されますが、顧客管理のできる専門的なツールのことを指すのが一般的です。
顧客とのやりとりのすべてを一元的に管理でき、対応の質を上げて顧客満足度を向上させ、リピーター化やロイヤルカスタマー化を促し、顧客のLTVを増加させることを目的としています。
メリット
- マーケティングから営業活動、サポートまで顧客に関する情報を一元管理できる
- 顧客情報をリアルタイムで確認し、共有できる
- 複数のユーザーが同時にデータを閲覧できる
- モバイル端末でも利用できる
- 顧客データの分析に必要なレポートの作成が簡単
- 分析結果から次のマーケティングや営業活動を提案できる
- セキュリティ対策をしてあるツールが多い
デメリット
- 初期費用やランニングコストがかかる
- 関連する各部署からのデータを集め、整理して入力する必要があり、手間と時間がかかる
- 利用を定着させるためには時間がかかる
- CRM導入によりどのくらい売り上げが上がったかなど、導入の効果がわかりにくい
顧客データ管理の効果を最大限に発揮させるポイントは専用のCRMの活用
紹介したように、CRM以外にも、顧客情報を管理できるツールはあります。
しかしどれも専用ツールではないため、必要なデータを管理できない、マーケティング戦略に利用できないなどで、LTV増加という本来の目的を果たせない場合も少なくありません。
顧客情報を適切に一元管理し、マーケティングに生かしてリピーターとして育成するには、やはりCRMの導入が最適解のひとつといえそうです。