顧客管理の重要性は広く認識されるようになり、多くの企業で顧客データを細かく管理するようになりました。
管理に既存のツールを駆使する企業も多く、なかでもよく使われているのが、Microsoft Excelです。
しかしExcelはそれ専用のツールではないため、使いにくい部分もあります。
今回の記事では、Excelではどこまで顧客管理ができるのかを考えていきます。
顧客管理ツールにはどんなものがあるのか
まずは、顧客管理とは何を管理するのか、どのようなツールが多く使われているのかを確認します。
どのようなデータを管理するのか
次のように顧客についてのあらゆる情報を管理します。
- 顧客の属性
名前、住所、メールアドレス、会社名、役職、年齢、家族構成など - 顧客の行動履歴
取引、購買履歴、行動の履歴など、顧客のこれまでの行動 - 顧客との接触履歴
取引、打ち合わせ、キャンペーン、サポートなど自社は顧客に対してどのようなアプローチを行ったのか、また顧客はそれにどのような反応をしたか、など
以上の情報を分析し、顧客について次のようなことを割り出します。
- 顧客の興味、関心、ニーズ
- これまで購入した自社製品への満足度
- 自社製品を購入する頻度
そこから、その顧客についてはどの製品をどのようにアピールすればいいのか、効果的な方法が分かります。
それぞれの顧客に合わせた適切なアプローチを行うことで、より効果的に営業活動を行い、最終的にはLTV(顧客生涯価値:1人の顧客が企業にもたらす価値の総額)を最大化することが顧客管理の目的です。
どのようなツールが使われているのか
顧客管理に使われているツールはさまざまですが、よく使われているのは、次のようなものです。
- Microsoft Excel(以下Excel)
- 会計ソフト
- SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)
- CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理システム)
顧客管理のための専用ツールはCRMですが、ほかのツールで顧客管理をしている企業もたくさんあり、特によく使われているのがExcelです。Excelではどこまで顧客管理が可能なのか、次項で見ていきます。
なお、顧客管理に使われているツールについては、『顧客データ管理の最適な方法は?これまでの課題から考えよう』でも詳しくご紹介していますので、ご参照ください。
Excelは顧客管理に向いているのか?
Excelを使って顧客管理をしている企業が多いとご紹介しましたが、実際Excelは顧客管理に向いているのでしょうか?
なぜExcelで顧客管理を行う企業が多いのか
CRMという専用ツールがあるにもかかわらず、Excelを利用する企業が多いのはなぜでしょうか?
Excelでの顧客管理には、次のようなメリットがあるからです。
- コストがかからない
Excelは大抵の企業で既に導入されているため、新たにツールを購入したりインストールしたりする必要がありません。顧客管理のテンプレートもたくさん提供されていて、その多くが無料かごく安価なものです。また、多くの社員が操作に慣れているので、教育のための時間も費用もほとんどかからず、結果的に、顧客管理にかかるコストを最小限に抑えられます。 - 自由度が高い
Excelは汎用(はんよう)表計算ソフトなので、入力項目の数や内容を修正し、自社の業務や管理したい情報に合わせてかなり自由にフォーマットを設定することができます。 - 社内規定に違反しない
新しいアプリケーションの購入に制約がある企業でも、既に導入済みのExcelなら、自由に使えます。
顧客管理のテンプレートも、Microsoftが公式で配布しているものを無料で利用できます。
フリーウエアやインターネットで配布されているツールを規制している企業でも、社内の規定に違反せずにすみます。
Excelで顧客管理を行うときの注意点
Excelは汎用の表計算ソフトであって顧客管理の専用ツールではないので、顧客管理に利用するには不便なところがいくつかあります。例えば、次のような点には注意が必要です。
- 大量のデータを取り扱えない
1枚のシートで取り扱えるデータ量は、Excel2007以降のバージョンでは最大1,048,576 行、16,384 列で、それ以上のデータを扱うことはできません。データ量が最大値に達さなくても、管理する項目の数が増えたり、複雑な関数を多用していたりすると、動きが重くなってしまいます。 - 分析機能が弱い
Excelに関して一定レベル以上のスキルと、業務についての深い知識があれば、関数やマクロを利用してある程度の分析機能を実現させることは可能です。しかし元来Excelには顧客分析の機能はないため、顧客情報を利用した多面的な分析を行うのは困難です。 - 多様な顧客を一元管理しにくい
顧客数が増えたり、多用な属性の顧客が増えたりすると、Excelではシートやファイルが分割されることがあります。つまりデータがいくつものシートやファイルに分割されてしまうことになり、顧客情報を一元的に管理できず、十分な顧客データの分析ができません。 - 複数人で同時にファイルを操作できない
Excelの仕様上、複数のユーザーで同時に編集することはできません。ファイルを複数人で共同編集するためには、MicrosoftのクラウドサービスであるOneDriveを利用するといったように、いくつかの条件を満たす必要が出てきます。 - 保存と共有の手間がかかる
ファイルを開いて操作したあと保存しなければ共有できず、データに即時性がない、別のユーザーが同時にファイルをダウンロードして別の操作を行うと二重保存のリスクがある、ファイルが大きいためモバイル端末から使いにくいなど、保存と共有という操作においてさまざまな問題があります。 - 過去の履歴が残らない
履歴を残す機能がなく、一度ファイルを操作してしまうと、以前のデータを見ることも現在のデータと比較することもできなくなりますので、十分なデータ分析ができません。また、操作を誤ってデータを消してしまった、計算式を消してしまった、間違ったデータを入力してしまったという場合にも復旧することができなくなります。 - ファイルをコピーしやすいのでセキュリティ上のリスクが高い
Excelファイルはコピーがしやすく、セキュリティ上のリスクとなります。顧客管理システム内のデータは個人情報の集まりです。顧客データを分散させずに一元管理して不正なアクセスを防止し、複製を禁止するなど、対処が必要です。 - バックアップを取りにくい
自動的にバックアップを取る機能がありません。システムを組むときに、定期的なバックアップを設定することはできますが、手間がかかります。また、設定しても頻度が1日1回ということが多く、バックアップを取ったあとに修正したデータを復元することはできません。 - バージョンが違うと使えない
Excelで作成した顧客情報システムやインターネット配布されているテンプレートは、多くが関数だけでなくマクロやVBAも使っています。それらはExcelのバージョンが異なると、使えないものも少なくありません。なお、企業によってはバージョンが何種類も存在し、最新のExcelで作成した顧客管理システムが、古いExcelでは使えないといったこともあります。
このように、Excelでの顧客管理には限界があり、せっかくの顧客情報や分析データを十分に生かすことができないのです。
Excelではできない顧客管理ができるのがCRM
CRMは、顧客管理のための専用ツールです。CRMに移行すれば、Excelでの顧客管理に感じていた不満の多くは解消されるでしょう。例えば、次のようなことです。
大量のデータを取り扱える
CRMは顧客管理用に構築されているため、Excelよりも多くの顧客データを取り扱うことができます。
多種多様な顧客データもひとつのデータベースで一元管理が可能です。
顧客管理に特化した多様な分析機能
簡単な操作で顧客データを多様な角度から分析することができます。
営業の現場向けには、顧客の属性やこれまでの進捗(しんちょく)状況から、それらに合わせた最適なアプローチを提案することができます。
また経営陣向けには、それぞれの顧客のデータを用い、属性ごとや顧客全体でなど、さまざまなデータ分析が可能です。
自動的に保存、共有される
一度データを入力するだけで、リアルタイムに保存することが可能です。
保存したデータは即時に共有され、ほかのユーザーも利用できるようになります。
複数人で同時にファイルを操作可能
データベース本体のファイルを操作するため、同じデータでなければ、複数のユーザーで同時に操作することができます。
モバイル端末からも使いやすい
データが増えてもインターフェースが重くならないので、営業担当者が外出先からモバイル端末でデータを入力したり、参照したりすることも容易です。
過去の履歴が残る
常に最新のデータを見ることができますが、過去のデータも保存しています。
そのため、過去と現在のデータを比較して、分析することも可能です。
また、操作を誤ってデータを消去したり間違ったデータを入力したりしても、簡単に復元することができます。
自動的にバックアップが作成される
ほぼリアルタイムでバックアップを作成します。
何らかのトラブルが発生してデータが破損したり消去されたりしても、直近のバックアップを利用して復元することが可能です。
強固なセキュリティ
CRMは顧客情報の集まりなので、セキュリティには十分な配慮がなされています。
データは簡単にはコピーできませんし、Excelのようにファイルとして抜き出すこともできません。
アクセス権限も詳細に設定されています。
Excelでの顧客管理ではせっかく入手した顧客データを十分に生かせない
Excelによる顧客管理は、大掛かりな導入準備が不要で、気軽に使うことができます。
少人数の顧客のデータを保存しておくだけなら、それほど不便はないでしょう。しかしExcelでの顧客管理には限界があり、顧客データを十分に生かすことができません。
顧客やスタッフが増えてきたら、CRMを導入することをおすすめします。