ブログ

DX推進は「既存事業」か「新規事業」か|企業の存続を左右する重要な選択肢

分岐路に立つ男性

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という単語が世間に浸透し、デジタルが秘める無限の可能性がIT業界以外でも議論されるようになりました。

DX関連の議論の中で、私たちはとある選択肢に直面します。以下の3択問題です。

  1. 既存事業を変革するのか
  2. 既存事業の延長にある市場を開拓するのか
  3. まだ見ぬ新規事業を開発するのか

企業ごとに前提条件が異なるため、上記の3択問題は一朝一夕で結論を出せる問題ではありません。しかし、既存事業と新規事業の競争環境を知ることで、解決に至るヒントが得られます。

既存事業と新規事業の分岐点は、企業の存続を左右する重要な選択肢です。DX戦略を練るためは「既存事業のDX」と「DXを活かした新規事業」の違いを押さえておきましょう。

既存事業のDXは、新規事業までの繋ぎ

既存事業のDXとは、デジタルの力を活用したビジネスモデルの変革です。既存事業のDXでもっとも分かりやすい例は「自動化」でしょう。

自動化で人件費を限界まで削り、競争優位性(圧倒的な低価格)を確立します。しかし、既存事業のDXは、新規事業を立ち上げるまでの繋ぎです。

既存事業の足元にある市場は、永遠に続くとは限りません。以下の2つの画像をご覧ください。

出典:Business Insider『5th Avenue, 1900 Vs. 1913』

出典:Business Insider『5th Avenue, 1900 Vs. 1913』

上記の画像は、1900年のニューヨーク5番街と1913年のニューヨーク5番街です。1900年のニューヨーク5番街では、まだ馬車が走っています。

しかし、世界初の自動車「T型フォード」が発売された5年後、1913年には馬車の姿がありません。わずか13年で「馬車」というビジネスモデルが淘汰されてしまったのです。

当時、馬車という既存のビジネスモデルに固執した企業は、自動車を前にことごとく倒産しました。自動車の横で馬車に変革を起こしたとしても、馬車というビジネスモデルが続くことはなかったでしょう。

市場に革命をもたらした「ワープロ」や「携帯電話」も、現在では見る影もありません。圧倒的な力を持つ新規事業は、世界の常識をいとも簡単に覆してしまうのです。

既存事業にデジタルの力を注いだとしても、足元にある市場は衰退し続けます。 既存事業のDXは「変革」という名の「延命措置」であるということを覚えておきましょう。

しかし、市場が衰退するとはいえ、既存事業がまったく役に立たないわけではありません。既存事業を変革するメリットは、デジタルの力で利益率を上げられるところにあります。

デジタルの力で既存事業を自動化し、以下の2つを新規事業に投資する戦略が主流です。

  1. 浮いた人員
  2. 最大化した利益

主力事業には「5段階モデル」を活用しよう

前述の通り、既存事業のDX戦略には厳しい未来が待っています。しかし、既存事業のDXにまったく勝ち目がないという訳ではありません。

DXコンサルタントのトニー・サルダナ氏が生み出した「5段階モデル」は、既存事業のDX戦略の希望です。

サルダナ氏の5段階モデルは、世界最大の一般消費財メーカーであるP&Gの主力事業の変革を成功に導きました。

変革のスタートからゴールまでを5ステージに分けた5段階モデルは、自分の立ち位置を知るためのロードマップとして機能します。

  • ステージ1:基礎
  • ステージ2:個別対応
  • ステージ3:部分連携
  • ステージ4:全体連携
  • ステージ5:DNA化

DXのような不確定要素が多いプロジェクトは、闇雲に取り組んで成功するものではありません。組織の変革からビジネスモデルの変革まで、順番に課題をクリアしていく必要があるのです。

5段階モデルについての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。

参考

既存事業が抱えるさまざまなハンデ

既存事業のDXが不利な理由は、市場の衰退だけではありません。既存事業(日本企業)が抱えるさまざまなハンデも、DX推進の妨げになります。

既存事業が抱える主なハンデは、以下の3つです。

  1. 既存システムの存在
  2. 既存顧客の存在
  3. 内部からの拒絶反応

既存システムの存在

既存システム(レガシーシステム)の存在は、日本企業にとって大きな課題です。ほとんどの日本企業には、ビジネスモデルに最適化された以下のようなシステムがあります。

  • 会計システム
  • 製造システム
  • 物流システム
  • 在庫管理システム
  • 受発注システム

デジタルの力でビジネスモデルを変革するためには、既存システムの更新が欠かせません。新規事業を立ち上げる際にも、既存システムとの連携が必要です。

しかし、既存システムの更新や連携には、莫大な金銭的・時間的コストがかかります。既存システムの中身が分からないことから、改修不可能なことも少なくありません。(ブラックボックス化)

10年間というタイムリミットがあるDXの世界は、スピード勝負です。新時代の始まりである「第四次産業革命」は、2030年頃に起こるとされています。

お金や時間を奪い続ける既存システムの存在は、日本企業にとって足枷と言わざるを得ません。

日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2020(2019年度調査)」によると、既存システムの維持に使われるIT予算の割合は、76.7%です。

参考

日本企業では、IT予算の約80%が既存システムに奪われ続けています。新規事業に回せる予算は、約20%しか残っていません。

予算の約20%で新規事業の開発となると、ライバルたちに先を越されるのは明白です。日本企業には、新規事業(バリューアップ予算)への投資比率を増やすことが求められています。

既存顧客の存在

残念ながら、既存事業が抱えている顧客もDX推進の妨げとなる可能性があります。既存事業のDXは、ビジネスモデルを抜本的に変える戦略です。

ビジネスモデルに手を加える過程で、既存顧客からの抵抗は避けられないでしょう。変革に賛同が得られない場合は、変革と既存顧客のどちらかを諦める選択が必要です。

既存事業のDXには、顧客体験を維持しつつ新たな価値を生み出すことが求められます。

内部からの拒絶反応

変革に対する抵抗は、既存顧客から受けるものだけではありません。企業の内部にも、変革への拒絶反応を示す社員は少なからず存在します。

長期間に渡って維持できている既存事業は、企業にとって大きな収入源です。「安定したキャッシュフローを失いたくない」という不安は、人間である以上避けられません。

しかし、永遠に続く市場が存在しないのも事実。足場が不安定になっている以上、安定した足場を探す必要があります。

不安定な足場に立っていては、事業はおろか企業まで崩れかねません。企業の崩壊を避けるためには、デジタルの力で不安定な足場から脱出する他ないのです。

DX競争は新規事業が圧倒的に有利

世界規模で繰り広げられるDX競争は、新規事業が有利な環境です。新規事業が有利な理由は、新しいルール(他社が真似できないもの)を創れるところにあります。

既存の市場で事業を行う以上、競争環境のルールから逃れることはできません。「馬車」という競争環境のルールは「馬車で何ができるか」です。

馬車というルールに縛られている限り、いつかは企業同士の消耗戦になります。しかし「自動車」という新たなルールを創れば、馬車同士の消耗戦に巻き込まれることはありません。

DX競争でトップに君臨した企業のビジネスモデルは、いずれも新規事業です。

  • Amazon
  • Netflix
  • Spotify

ハイリスク・ハイリターンではあるものの、新規事業はゲームを根底から覆すほどの力を秘めています。しかし、競争環境に新たなルールを持ち込んでも「消耗戦」という未来は避けられません。

DX競争は、今後も新規事業A → 消耗戦α → 新規事業B → 消耗戦β → 新規事業C →消耗戦γを繰り返すことでしょう。

新規事業の開発競争では、新規事業Aの成功に甘えず、未来を見据えた新規事業Bの開発が求められます。

現在トップに君臨している企業たちも、すでに新規事業の開発を進めているはずです。

「既存事業の成功」と「新規事業の成功」は別物

既存事業が成功したとしても、新規事業の開発で成功するとは限りません。既存事業が成功した企業は、資金繰りに困ったり早期終了したりする可能性は低いでしょう。

しかし、既存事業が抱えている人材は、現在のルールの中でうまく立ち回れる人材です。新たにルールを創り、競争環境に浸透させた経験があるとは限りません。

「既存事業を潰したくない」という不安から、保守的になる人材もいるでしょう。新規事業の世界でライバルとなるのは、革新性の高いスタートアップ企業です。

0から1を生み出した経験がない限り、スタートアップ企業に有利を取ることはできません。

スタートアップに出資して新規事業を創る

既存企業が生き残る手段のひとつに「スタートアップ企業に出資する」という戦略があります。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を立ち上げて出資し、既存事業との相乗効果を狙う戦略です。

M&A(合併・買収)とは異なり、運用コストや損失を自社ですべて抱え込むことはありません。スタートアップ企業に出資することで、自社には無い革新的な技術を利用できます。

出資先のリソースを活かせるため、自社のリソースに縛られない点もメリットです。しかし、既存事業との相乗効果を狙える出資先が必ず存在するとは限りません。

出資先の企業が経営破綻し、リターンが得られない可能性もあります。CVCの立ち上げも新規事業の開発も「ハイリスク・ハイリターン」という観点では同じです。

CVCと新規事業は過程が違うため、どちらが良いとは一概には言えません。

共通点は「強いリーダーシップの存在」

DX戦略における既存事業と新規事業は、まったくの別物です。既存事業のDXと新規事業の開発で流用できるものは、あまり多くありません。

しかし、両者ともに欠かせない要素が1つだけあります。両者ともに欠かせない要素とは「強いリーダーシップの存在」です。

「強いリーダーシップがなければDXは成功しない」と言っても過言ではありません。DXが直面するさまざまな障壁を打破するためには、リーダーの存在が求められます。

  • 変革への抵抗勢力
  • 不確定な未来
  • 確実な資金調達
  • モチベーションの維持

DXにおいてリーダーとなるべき人物は、主に社長やオーナーです。DXの初期段階であれば、マネージャーなどがリーダーでも問題ないでしょう。

しかし、本格的な変革に入るDXの後半戦は、強いリーダーシップが欠かせません。DXのリーダーたちには、献身的なコミットメントを示すことが求められます。

献身的なコミットメントとは、DXの複雑さを現場に丸投げせず、自分事として捉えることです。DXにおける以下の3つは、現場の責任者に丸投げできる問題ではありません。

  1. ビジネスの課題を明確にする
  2. 課題とDX戦略を結びつける
  3. DXが直面する障壁を打破する

現場への丸投げを防ぐためには、リーダー自身もDXについて理解を深める必要があります。

リーダーにもデジタルリテラシーが必要な理由

DXの複雑性を理解するためには、基礎的なデジタルリテラシーが必要です。「デジタルリテラシー」とはいうものの、自力でプログラムが書けるレベルまでは求められません。

DXが求めるデジタルリテラシーは、ITの可能性について最低限のことを素早く理解できるレベルを指します。

少なくとも、流行のテクノロジーが自社のビジネスにどう影響するかの知識は必要でしょう。ITに疎い経営層は、デジタル戦略を現場の責任者に任せがちです。

基礎的なデジタルリテラシーは、組織の内外にいる専門家から学ぶことができます。しかし、戦略の策定や障壁の打破だけは、誰にも委ねることはできません。

基礎的なデジタルリテラシーの習得は、DXのリーダーがクリアすべき課題です。

それぞれの違いを理解して戦略を練ろう

DX戦略における既存事業と新規事業の違いを解説しました。既存事業のDXは、いわば既存事業の延命措置です。

既存事業の足元にある市場は、永遠には続きません。既存市場が衰退することを前提に、新規事業の開発を進めましょう。

業界をリードするような主力事業がある場合は、既存事業のDXに集中するという選択肢もあります。P&Gの主力事業のDXを成功に導いた「5段階モデル」は、既存事業の希望です。

DXのような不確定要素が多いプロジェクトは、闇雲に取り組んで成功するものではありません。5段階モデルのロードマップ機能を活かし、既存事業が抱える課題を着実にクリアしましょう。

5段階モデルについての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。

参考

DXを活かした新規事業の開発は、ハイリスク・ハイリターンな選択肢です。新規事業の成功は、企業に圧倒的な利益と地位をもたらします。

しかし、既存事業の成功と新規事業の成功に正の相関はありません。既存企業が新規事業を開発する場合は、外部リソースの活用が必須です。

既存企業のDXと新規事業の開発には「強いリーダーシップが必要」という共通点があります。DXが直面するさまざまな障壁は、現場の責任者のみでは乗り越えられません。

DXのリーダーは、現場の人間に対して献身的なコミットメントを示しましょう。

サイバーウェーブは御社のDXを支援します

サイバーウェーブは、発注した段階でシステムの7割が完成している高品質・短納期・柔軟なシステム「VALUE KIT」をベースに、お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。

おすすめ記事