経済産業省と東京証券取引所が毎年に発表する「DX銘柄」をご存知でしょうか? 2020年から始まった日本企業のDX化を促進する政府主導の取り組みです。来年度の「DX銘柄2022」の選定も決定しました。(2021年10月時点)。今回の記事では、DX銘柄についての基礎知識、申請方法からDX銘柄に選ばれるポイントまで解説します。
DX銘柄とは
政府公認のDX関連銘柄
デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)とは、DXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業へ向け、政府から公式に与えられる称号です。
経済産業省と東京証券取引所が共同で選定しているもので、東京証券取引所に上場している企業の中から選ばれ、各業種から1〜2社選ばれます。
毎年10月頃から評価項目や応募フォーマットなどの情報が公開され、翌年の5〜8月の間(2020年は8月25日、2021年は6月7日に発表されました。2022年は5月下旬〜6月初旬で発表予定)に発表されます。
日本企業のDXを促す
DX銘柄の選定は2020年から始まったものですが、その前から似た制度はありました。企業価値の向上のため、積極的なIT利活用に取り組んでいる企業が選ばれる「攻めのIT経営銘柄」です。
「攻めのIT経営」とは、ITの活用による企業の製品・サービス強化やビジネスモデルを通じて新たな価値の創出やそれを通じた競争力の強化に戦略的に取り組む経営を指しました。
2015年から過去に5回実施された「攻めのIT経営銘柄」から2020年に「DX銘柄」に変更した点について、経済産業省は次のように説明しています。
「近年、デジタル技術を前提として、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化に繋げていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)のグローバルな潮流が起こってきていることを踏まえ、2020年の銘柄より、選定の焦点をDXに当てるとともに、名称を変更した」
2025年の崖やSociety5.0時代を意識した、日本企業のDXの遅れを取り戻したいという政府の意向が伺えます。
また、DX銘柄の目的について、経済産業省は「デジタルトランスフォーメンション銘柄(DX銘柄)2021の狙い」の中で次の3点を掲げています。
- 目標となる企業モデルを広く波及させる
- IT利活用の重要性に関する経営者の意識変革を促す
- 投資家を含むステークホルダーへの紹介を通して評価を受ける枠組みにより、企業のDXの更なる促進を図る
DXを一時的なトレンドとして終わらせることなく、中長期的に企業価値を向上させ、競争力を強化させる仕組みであることを理解してもらうために、DX銘柄選出が行われているのです。
DX銘柄2022の選定スケジュール
2021年9月に経済産業省から発表されたDX銘柄2022の選定スケジュールは以下になります。
DX銘柄に選定されるメリット
企業は、DX銘柄に選定されることで、DXに十分に取り組めているという国からのお墨付きをもらうことができます。
「弊社はDXに取り組んでいます!」と声を大に主張しても、本当に「2025年の崖」を乗り越えられるだけの取り組みができているかどうかわかりません。
厳格な審査の下に選定されたDX銘柄企業は、Society5.0時代に突入する現在、瞬時に淘汰される可能性の少ない優良企業として信頼度を増すことができます。
「DX銘柄2021」に選定された企業
DX銘柄グランプリ
DX銘柄として選定された中でも、特に優れた取り組みを行った企業には、名誉ある「DXグランプリ」の称号が与えられます。DXグランプリ企業は、業種の枠を超え「デジタル時代を先導する企業」であると認められた企業です。具体的には次の企業がグランプリに選出されています。
2021年度のDXグランプリ企業
日立製作所(電気機器)
「データから新たな価値を創出するLumadaで、社会のデジタルトランスフォーメーションをリードする企業へ」日本を代表する総合電機メーカーである日立製作所は、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」を企業理念に、社会インフラのDX推進に注力しています。2020年には、世界経済フォーラム(WEF)から大みか事業所を世界の先進工場「Lighthouse」に選出されています。先端技術を用いた、ハードウェア・ソフトウェアの開発・設計から納入後の運用保守までにわたるバリューチェーン全体の最適化、高度化が評価されました。
製品や設備、システムの最適な運用を実現するOT(「制御・運用技術」のこと、オペレーショナルテクノロジー)とITを融合させたデジタルイノベーションプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」を開発し、他企業を巻き込んだ積極的なデータ活用を進めた点も話題となりました。
DX銘柄評価委員会は次のようなコメントを残しています。
「自社でDXを推進する実験場を有している」
「DX人材を類型化し、人材像ごとに育成・確保を計画している」
「自グループで実績を踏んだソリューションをグループ外及びグローバルに展開できている」
Lumadaを中心に、整理されたDX体系と、国内に止まらない大規模なDXへの取り組みが評価されたと言えます。
SREホールディングス(不動産)
「A DECADE AHEAD -『リアル×テクノロジー』で10年後の当たり前を造る」 2014年まで、ソニー不動産として事業活動を行っていたSREホールディングスは、AIクラウド&コンサルティング事業と不動産事業をかけ合わせた不動産テック事業活動を行っています。過去の取引データに基づき不動産取引価格を自動査定する「AI不動産査定ツール」や、契約書や説明書の作成をスマート化する「不動産売買契約書類作成クラウド」など、先端技術を活用した業務効率化、さらに、これらAIソリューション・ツールをプロダクトとして他業界へ提供するといった活動が評価されました。
DX銘柄評価委員会は次のようなコメントを残しています。
「破壊的なビジネスモデル」
「組織・人材・レガシーシステム対応も整合性が高い」
「AI等のデジタル技術を積極的に活用し、「脱不動産」への布石として多角化ビジネスをDXによって推進する姿勢を評価したい」
先端技術への前向きな姿勢と、確実な成長が評価され、グランプリ企業へと選出されました。
2020年度DXグランプリ企業
株式会社 小松製作所(機械)
「DANTOTSU Value FORWARD Together for Sustainable Growth 世界の現場を、『ダントツ』でつなぐ」 2021年に創立100周年を迎えた株式会社 小松製作所(以下、略称である「コマツ」を使用)は、建設・鉱山機械、小型機械、産業機械などの事業を展開するメーカーです。
IoTデバイスと、アプリケーションを導入した「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」の国内導入により、建設生産プロセスの縦横、双方のデジタル化を進めたり、IoTやAI技術を活用した「号機管理プロジェクト」でアフターマーケットに新たなビジネスモデルを構築しました。
DX銘柄評価委員会は次のようなコメントを残しています。
「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場を実現しようとしている姿勢が高く評価できる」
「外部環境の変化に対応する強靭でフレキシブルな収益構造とESG課題の解決の両立を高いレベルで実現している」
網羅的に課題を捉え、その全てをデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルで解決しようとする姿勢が評価されています。
トラスコ中山株式会社(卸売業)
「どんな時代も「こころざし」を胸に、トラスコ中山らしさ溢れるDXで明るく元気な社風とヒトを醸成していく。」トラスコ中山株式会社は、機械工具や物流機器、安全用品などの膨大なアイテムを取り扱い、日本のモノづくりを支えている卸売企業です。基幹システムを刷新により、取引先と簡単にさまざまなデータを共有できる体制を作り上げたり、工場や建設現場で使用するプロツール(向上用副資材)の在庫の自動補充、在庫管理コストの削減を可能にする「置き薬」のビジネスモデルを応用した「MROストッカー」と呼ばれるサービスを開始しています。
DX銘柄評価委員会は次のようなコメントを残しています。
「様々なソースからデータを収集し、AI等を活用してデータを分析し、それを同社の独創力としてサービスに転換するサイクルを柔軟に回すことに成功している」
「自社物流センターを持ち、ビッグデータ、AI、IoT、RPAといったデジタル技術との相性を活かし、持続的に進化させている」
サプライチェーン全体にアプローチしたDXの取り組みなど、日本のモノづくりをリードしていく気概を感じる施策が、グランプリの決め手だったと言えます。
DX銘柄に選ばれるための前提条件「DX認定」の取得
DX認定制度とは
DX銘柄に選ばれるために前提条件として、「DX認定」の取得があります。
DX認定制度は、企業がデジタルによってビジネスを変革する準備ができている、DX推進の準備が整っている(DXReady)状態にあることを認める制度です。
制度自体は、2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づいて始まった比較的新しい制度です。DX銘柄に選ばれるための第一関門です。
取得には、各種DXに関する手続きを行うことができるオンラインサービス「DX推進ポータル」で申請します。アクセスには、gBizID(ジービズアイディー)アカウントが必要です。DX銘柄の申請の際にも、同様のサービスへのアクセスが必要になります。
デジタルガバナンスコードとの関係
DX認定の基準は、経営者に求められるDXに向け実践すべき事柄を取りまとめた「デジタルガバナンスコード」にもとづいています。
デジタルガバナンスコードには、以下の6つの柱があります。
- 1. ビジョン・ビジネスモデル
- 2. 戦略
- 2-1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
- 2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
- 3. 成果と重要な成果指標
- 4. ガバナンスシステム
また、それぞれの柱で、
(1)基本的事項(①柱となる考え方、②認定基準)
(2)望ましい方向性
(3)取組例
の順に説明を加えています。DX認定制度の申請項目は、特に(1)基本的事項と関連が強いです。
申請書の記入に関する注意点や具体的な質問内容などは「DX認定制度申請ガイダンス」から確認できます。
審査期間(60日)に注意
DX認定は申請から平均60日で取得することができます。しかし、申請に不備があると、さらに再申請日から60日の審査期間が必要となります。
DX調査とは
DX銘柄に申請するには、DX認定を取得したあと「DX調査」に回答します。
「DX調査」への回答でDX銘柄に申請完了
DX調査とは、東京証券取引所の上場会社全社(一部、二部、マザーズ、JASDAQ)に対して行われるアンケート調査で、その年のDX銘柄の選定材料を集めます。年によって多少ずれますが、傾向からして11月下旬〜1月上旬の間が回答期間です。
DX調査に協力すると、フィードバックとして更なるDX推進に役立つ情報をもらうことができます。
回答するだけならDX認定は必要ない
ちなみに調査への回答をするだけなら、DX認定は必要ありません。DX認定を未取得の企業でも、回答すればフィードバックをもらうことができます。
DX銘柄へ選ばれたい企業はもちろんのこと、DX認定がまだ未取得であったり、自信を持てない企業も、調査に回答してフィードバックをもらうと良いのではないでしょうか。
調査項目
DX調査の調査項目は毎年11月上旬頃に発表されます。2020年の11月25日から2021年1月13日の間に行われた2021年度の調査項目を紹介します。
アンケートは選択式項目と記述式項目の2部構成になっています。
選択式項目
2〜5つの選択肢への回答と、選択した理由が記述式で問われる形で以下6つの項目、計32問への回答が必要でした。
- Ⅰ. 経営ビジョン・ビジネスモデル
- Ⅱ. 戦略
- Ⅱ-①. 戦略実現のための組織・制度等
- Ⅱ-②. 戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム
- Ⅲ. 成果と重要な成果指標の共有
- Ⅳ. ガバナンス
記述式項目
完全記述式で、「企業価値貢献」と「DX実現能力」の2項目があります。
それぞれの評価ポイントや回答フォームは「デジタルトランスフォーメーション調査2021設問項目一覧」を参照ください。
DX銘柄の選定プロセス
DX銘柄企業は以下のプロセスを経て選定されます。
出典:DX銘柄事務局 説明資料
注意:DX銘柄2021の選定プロセスであり、毎年同じとは限りません
① DX調査への回答
↓
② DX調査で回答したアンケートの「選択式項目」とROE(自己資本利益率)によるスコアリング評価(1次審査)
↓
③ 銘柄評価委員会が、DX調査で回答したアンケートの「記述式項目」を中心に最終評価(2次審査)
DX調査アンケートへの回答が審査へのエントリーとなります。DX認定を未取得の場合には、DX認定の申請も必要になります。
1次審査にあるROEのスコアリングは、スクリーニングの材料ではありません。加点方式で考えられているのは、DX銘柄の将来性・発展性のある企業を選定するという企画趣旨のためです。
DX銘柄に選ばれるポイント
「デジタルトランスフォーメーション銘柄2021の狙い」で紹介されているDX銘柄選定のポイントから、DX銘柄に選ばれるための要点を解説します。
1次評価
1次審査で重視されるポイントは、DX認定制度でも登場した「デジタルガバナンスコード」にあります。
デジタルガバナンス・コードのうち、DX銘柄に連動している部分は
(2)望ましい方向性
(3)取組例
の2つです。
「ビジョン・ビジネスモデル」の柱における、それぞれの項目の一例を紹介すると、
(2)望ましい方向性
「経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いている」
(3)取組例
「デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえ、経営方針および経営計画(中期経営計画・統合報告書等)において、DXの推進に向けたビジョンを掲げている」
というように定められています。
あなたの会社が取り組んでいる独自のDXが一致する項目を探し出すことで、DXの取り組みを適切にアピールできます。
2次評価
記述式の2次評価は、「企業価値貢献」と「DX実現能力」の2つの観点から行われます。DX銘柄に選ばれるためには、2つの観点の両方を高い水準で満たしている必要があります。
企業価値貢献
企業価値貢献はさらに、
- デジタル技術を用いた「既存ビジネスモデルの深化」(優先度:低)
- デジタル技術を用いた「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」(優先度:高)
の2つの項目に分かれます。特に「既存ビジネスモデルの深化」よりも「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」が重視されます。
デジタル技術を用いた「既存ビジネスモデルの深化」では、既存ビジネスモデルの強化・改善にI T/デジタル戦略・施策が大きく寄与しているか、戦略・施策の達成度をKPI(重要業績評価指標)とし、目標値を設定しているか、最終的にKGI(財務成果)につながるシナリオがあるか、などが注目されます。
デジタル技術を用いた「業態変革・新規ビジネスモデルの創出」では、利益や生産性の他に社会課題等の解決を目的とした従来にない協創をIT/デジタルの力を用いて実現しているか、KPIとして目標値を設定しているか、KGIへつながるシナリオがあるか、などが注目されます。
DX実現能力
DX実現能力は以下7点を意識する必要があります。
- 経営ビジョン
経営ビジョンの柱の1つにIT/デジタル戦略を掲げている、など - 戦略
データを重要経営資産の1つとして活用している、など - 組織・人材・風土
必要とすべきIT/デジタル人材の定義と、その獲得・育成/評価の人事的仕組みが確立されている、など - IT・デジタル技術活用環境の整備
レガシーシステム(技術的負債)の最適化(IT負債に限らず、包括的な負債の最適化)が実現できている、など - 情報発信・コミットメント
経営者が自身の言葉でそのビジョンの実現を社内外のステークホルダーに発信し、コミットしている - 経営戦略の進歩・成果把握、軌道修正
経営・事業レベルの戦略の進歩・成果把握が即座に行える、など - デジタル化リスク把握・対応
企業レベルのリスク管理と整合したIT/デジタル・セキュリティ対策、個人情報保護対策やシステム障害対策を組織・規範・技術など全方位的に打っている
【投資】DX銘柄に投資するには?
政府主導のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、株式市場に大きな影響を与えています。DX関連の株は国策銘柄として人気が高く、今後もDX関連銘柄が幅広く買われる予想です。
「DX銘柄」の株は、通常の株式市場で取引することができます。他の銘柄と取引方法が異なるということはありません。
DX注目企業とは
DX銘柄には選ばれなかったものの、注目に値する取り組みを行なっている企業はDX注目企業に選定される可能性があります。DX銘柄と同様に、選定されるためにはDX認定の取得が必要です。
DX銘柄2021で選定された「DX注目企業2021」
出典:DX注目企業2021・デジタル×コロナ対策企業 選定企業
DX銘柄と異なり、2次評価で「DX実現能力」が十分でないと判断されても、「企業価値貢献」が会社独自の工夫により高い場合、注目企業に選ばれる可能性があります。
デジタル×コロナ対策企業とは
DX調査2021では、DX調査2020からの変化として、新型コロナウイルス感染症を踏まえた設問が1問追加されていました。この設問は、DX銘柄の審査とは関係がなく、新たに設けられた「デジタル×コロナ対策企業」の選定に用いられました。
「デジタル×コロナ対策企業」の称号は、デジタル技術を活用し、優れた感染対策の取り組みを実施した企業に与えられます。
DX銘柄2021で選定された「デジタル×コロナ対策企業」
出典:DX注目企業2021・デジタル×コロナ対策企業 選定企業
DX銘柄2022エントリーは2021年12月22日18時(予定)まで
DX銘柄は、政府から認められるDX先進企業認定です。その価値は、単なるブランディング以上に、これからの時代を生き抜く力がDX銘柄企業にはあるという証拠です。DX銘柄を連続でとる企業がいるように、デジタルありきの企業活動を継続的に考えていくことが大切です。
自社のDXに自信がなくても、DX銘柄に選定されるための第一歩である「DX認定」の取得や、エントリーあたる「DX調査」への回答、フィードバックをもらうことができます。積極的な外部評価の収集から、DX成功のカギを探してみてください。
サイバーウェーブは御社のDXを支援します
サイバーウェーブは、発注した段階でシステムの7割が完成している高品質・短納期・柔軟なシステム「VALUE KIT」をベースに、お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。