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【要約】令和3年版 情報通信白書から読み解く日本企業が世界で生き残るためのDX戦略【後編】

DX

企業のデジタル変革を表すキーワード「デジタルトランスフォーメーション(DX)」について、総務省が発行した「令和3年版 情報通信白書」は、DXを中心のテーマにしています。日本のDXの現状を詳しく調査しており、示唆に富んでいます。しかし、大量のページ数があるため、細部まで読み込むのはなかなかたいへんです。

そこでこのシリーズでは、総務省が発行した「令和3年版 情報通信白書」をサイバーウェーブ編集部が要約し、日本企業のDX戦略のポイントを紹介していきます。

前編では、日本政府がDXの推進を急ぐ理由と、日本企業のDX事情を見てきました。後編では、世界で既存産業を次々と革新している「ディスラプター」と、日本企業が世界で生き残るためのDX戦略を見ていきましょう。

シリーズ

既存のビジネスモデルを破壊的に革新する「ディスラプター」

DXをつうじて企業が目指すのは「デジタル・ディスラプション」です。デジタル・ディスラプションとは、デジタルの力で既存のビジネスモデルを破壊し、新たなビジネスモデルを確立することです。

ディスラプター(破壊者)たちは、デジタルの力で安価・高品質なビジネスモデルを構築しています。従来型のビジネスモデルに風穴を開けるため、既存企業の存続は困難になっていきます。

デジタル競争におけるディスラプターは既存の企業にとって脅威的な存在です。ディスラプターたちが築いたビジネスモデルはなかなか崩せません。

デジタル・ディスラプションの主な事例

情報通信白書 令和3年版で紹介されていたデジタル・ディスラプションの事例を紹介します。

  1. iTunes
  2. Spotify
  3. Amazon

iTunes|音楽業界のビジネスモデルを破壊

Appleは「iTunes」で音楽業界のビジネスモデルを破壊しました。既存の音楽業界のビジネスモデルは、CDやレコードを販売するという形態です。

さまざまな機能を兼ね備えたiTunesは、携帯型デジタル音楽プレイヤー「iPod」とともにユーザーを増やしていきます。音楽業界の常識を覆したAppleは、iTunesで「音楽はDLして聞くもの」という新常識を生み出しました。

Spotify|Appleが築いたビジネスモデルを破壊

Spotifyは、Appleが築いたデジタル音楽市場のビジネスモデルを破壊しました。Appleが築いたビジネスモデルは、プラットフォームで販売されている音楽をDLするという形態です。

SNSとの親和性が高いSpotifyは、スマートフォンの普及とともにユーザーを増やしていきます。業界最大手にまで成長したSpotifyは「音楽はサブスクリプションで聞く」という新常識を生み出しました。

iTunes → Spotifyの事例は、ディスラプターがディスラプターに勝利した珍しい事例です。

Amazon|小売業界のビジネスモデルを破壊

Amazonは、通販サイトで小売業界のビジネスモデルを破壊しました。既存の小売業界のビジネスモデルは、リアルの店舗に足を運んで商品を買うという形態です。

利益度外視で顧客を囲い込んだAmazonは、世界で最も影響力のある企業にまで成長します。安価で便利なサービスを展開したAmazonは「オンラインショッピング」という新常識を生み出しました。

ディスラプター優位の流れはさらに加速する

新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こしたデジタル化の加速は、なかなか止まりません。デジタル化が加速すればするほど、ディスラプターたちの勢いはさらに加速します。ディスラプターたちの勢いを加速させる要因は、以下の4つです。

  1. スマートフォンの普及による消費行動の変化
  2. クラウドサービスの登場
  3. データ収集の活発化
  4. デジタル市場のグローバル化

1. スマートフォンの普及による消費行動の変化

ディスラプターたちの勢いを加速させる1つ目の要因は、スマートフォンの普及による消費行動の変化です。スマートフォンが生活インフラとして定着し、さまざまなジャンルで新たな製品やサービスを展開する企業が増えました。

消費者は、新たな製品・サービスに触れることで行動や価値観を絶えず変化させています。ビジネスモデルが古い企業の競争力は低下していきます。

2. クラウドサービスの登場

ディスラプターたちの勢いを加速させる2つ目の要因は、クラウドサービスの登場です。以前は、情報システムの構築や新技術の導入には莫大な投資と時間を要していました。

しかし、クラウドサービスが普及した今日では、莫大な投資と時間は必要ありません。デジタル技術を活用するハードルは大きく下がっています。

マーケティングや試作品の制作は、インターネット上のサービスを利用することで迅速かつ安価にできるようになりました。

ディスラプターが新たなディスラプターを生む

クラウドサービスの活用が当たり前になったデジタル競争では、ディスラプターが新たなディスラプターを生んでいます。代表的な事例は、AmazonとNetflixです。

前述のデジタル・ディスラプションの事例でAmazonを紹介しました。Amazonが風穴を開けた事業は、小売だけではありません。Amazonは、既存のサーバー事業にも風穴を開けています。

Amazonが展開するクラウドコンピューティングサービス「AWS(Amazon Web Services)」は、世界シェア1位を誇る大規模サービス。AWSとは、システム構築に使われるサーバーやデータベースなどのさまざまサービスをまとめた総称です。

高機能なクラウドサービス「AWS」を低価格で展開するAmazonは、サーバー事業でも覇権を握りました。サーバー事業のディスラプターとなったAWSは、新たなディスラプターを生み出します。

そのディスラプターこそがVODサービス(ビデオ・オン・デマンド、Video On Demand)で覇権を握るNetflix。Netflixは、既存のビデオ業界のビジネスモデルを破壊しました。既存のビデオ業界のビジネスモデルは、リアル店舗や郵送で実物をレンタルし、返却する形態です。

VODサービスには、レンタルビデオの欠点である「在庫」や「延滞料」という概念がありません。スマートフォンやPCで手軽に視聴できます。

オリジナルコンテンツで顧客を囲い込んだNetflixは、会員数が世界で2億人を超える最大手サービスに成長しました。

3. データ収集の活発化

ディスラプターたちの勢いを加速させる3つ目の要因は、データ収集の活発化です。従来のデジタル競争は、ネットワーク上のWebデータをうまく集めた企業が優位に立てました。

しかし、企業の競争力の源泉は、リアル空間におけるデータに変わりつつあります。今後は、日々の生活や仕事の中にある以下のようなデータを集めた企業が競争優位に立ちます。

  1. デジタル化されていない膨大な物的資産のデータ
  2. 経験と勘によって培われた膨大なアナログプロセスのデータ

リアル空間のデータを集めるポイントは、自社の「外」との関係性を構築することです。総務省は、情報通信白書 令和3年版の中で以下の4つを挙げています。「連携の経済性」で相乗効果を生み、新たな価値を創出することが求められます。

  1. 他社
  2. 他業界

4. デジタル市場のグローバル化

デジタル技術の普及は、先進国だけではありません。途上国にもデジタル技術が普及しています。デジタル化によって世界規模で時間的・物理的な制約が大きく取り払われました。

かつて市場とは地理的制約がつきもので、その地理的制約がときに参入障壁となり、既存産業を守ってきました。しかし、市場のグローバル化や企業間競争のボーダーレス化が進み、デジタルを活用したサービスは距離の制約を超えて全世界に展開されます。国内だけではなく海外を含めたデジタル企業が競争相手になります。

途上国で見られる「リープフロッグ現象」

近年、途上国では、固定通信網が発達していない環境でモバイルが急速に普及する「リープフロッグ現象」が見られます。例えば、銀行口座をもつことが一般化していないアフリカで、携帯電話のSMSを利用した金融取引サービス「M-Pesa」が普及しました。途上国におけるデジタル技術の普及スピードは、先進国の日ではありません。

途上国では、デジタル産業の育成に力を入れる国も出てきました。途上国が先進国企業のライバルを生む日は、そう遠くはないでしょう。

スマホ市場でシェアを拡大する中国企業

近年、世界のスマホ市場では、高い技術と安価な人件費を駆使した中国企業がシェアを拡大しています。2021年第2四半期のスマートフォン世界シェアは、以下の通りです。

ブランド 2021年 第2四半期シェア 2021年 第1四半期シェア
Samsung(韓国) 18.9%(-2.7%) 21.6%
Xiaomi(中国) 16.9%(+2.8%) 14.1%
Apple(アメリカ) 14.2%(-1.8%) 16%
OPPO(中国) 10.5%(-0.1%) 10.9%
vivo(中国) 10.1%(±0%) 10.1%
その他 29.5%(+2.2%) 27.3%

出典:「Despite Supply Concerns and Vendor Shakeups the Global Smartphone Market Still Grew 13.2% in the Second Quarter, according to IDC」(IDC)

世界のスマートフォン市場では、2位をめぐりAppleとXiaomiが競り合っています。このままXiaomiの勢いが止まらなければ、Appleを追い抜いてSamsungとXiaomiの一騎打ちになるでしょう。

日本がディスラプターになるための取り組み

日本企業が「ディスラプター」になるためには、DXを実行することです。DXの到達点は、新たなビジネスモデルを生み出して競争優位を確立すること。具体的な取り組みは3つに分けられます。

  1. 組織に関する取り組み
    • ビジョンの策定
    • 予算の確保
    • 社内の意識改革
    • 社内の推進体制の確立
    • 推進のための新組織の設立
    • 外部との連携
  2. 人材に関する取り組み
    • デジタル人材の確保
    • 研修の充実
    • 専門資格取得の奨励・補助
  3. ITに関する取り組み
    • デジタル技術の活用
    • デジタルデータの活用
    • ITを活用した働き方改革
    • ベンダー依存からの脱却
    • レガシーシステムの刷新

日本企業がDXを実施することで得られるメリットは、以下の3種類です。

  1. 社内におけるメリット
    • 業務の効率化
    • コストの削減
    • 企業文化の変革
    • 働き方改革
  2. 自社製品・サービスにおけるメリット
    • 高付加価値
    • 販路拡大
    • 新製品の創出
    • 新サービスの創出
    • 新規事業の創出
  3. 社外・対顧客におけるメリット
    • 業務提携などの関係強化
    • 顧客満足度の向上

DXの具体的な成功事例は、以下の記事をご覧ください。

あわせて読みたい

DXに取り組む上で必要な6つの変革

DXに取り組む上で必要な6つの変革は、以下の6つです。

  1. 社内の意識改革
  2. 推進体制の構築
  3. 制度・慣習の改革
  4. 人材の育成・確保
  5. ビジネスモデルの見直し
  6. レガシーシステムの刷新

DXに取り組む上で必要な変革は、企業によって異なります。手段から入るのではなく、自社の事業や製品・サービスが抱える問題点と改善点を探し出すところから始めましょう。問題の明確化がDXの第一歩です。

内容を整理するために、前編も併せてご覧ください。

あわせて読みたい

1. 社内の意識改革

日本企業でDXが進まない原因の1つは、社内全体で危機意識の共有が図られていないことです。デジタル企業が既存のビジネスモデルを破壊する「デジタル・ディスラプション」は、国内外ですでに発生しています。

日本企業はディスラプターの脅威を認識しているのにも関わらず、DXの実施に踏み切れていません。DXの必要性を認識している人間は、経営層や社員のごく一部です。

日本企業には、研修や講演などを活用し、社内全体にDXの必要性を共有することが求められています。

2. 推進体制の構築

DXを推進するためには、取り組みをスムーズに行える体制の構築が重要です。DXは、組織や文化、ビジネスモデルの変革をともなう大きなプロジェクトになります。ただたんに業務をデジタル化するものではありません。

特定の部署で小さくスタートし、やがて企業全体を巻き込んだ大きな取り組みに発展させていきます。日本は、アメリカ・ドイツと比べて経営層(社長、CIO、CDO)のDXへの関与が少ないです。

図表1-2-4-7

出典:「令和3年版情報通信白書」(総務省)

全体的な取り組みになるほど、上層部による主導が重要となります。専門組織を設置して主導する場合には、企業全体に関与できるだけの権限の付与も必要です。

3. 制度・慣習の改革

多くの企業が挙げたDXの実施を阻害するものとして、規制・制度や文化・慣習の存在があります。

法令で定められた規制・制度や業界内での慣習を一社の力で変えることは難しいです。しかし、以下のような社内における制度・慣習は、経営層の積極的な判断で変革することができます。

  1. リモート勤務を認めない就業規則
  2. デジタルで完結できない業務
  3. セキュリティポリシー

見直すべきポイントは、社内のあらゆるところに存在します。

4. 人材の育成・確保

日本では、DXの推進に欠かせないデジタル人材が不足しています。DXの推進に必要なデジタル人材は、ただデジタル技術に詳しいだけの人間ではありません。以下の2つの要素も重要です。

  1. ビジネスを理解している人材
  2. UIやUXを意識したデザインができる人材

理想は、上記すべてを兼ね備えた人材が社内に存在すること。しかし、現実的には難しいでしょう。日本企業には、デジタル人材の育成・確保が求められています。社会人になってから学び直すことで高度な知識を獲得する「リカレント教育」も有用な手段です。

ポイント
  • 日本は、社内で人材を育成する傾向がある
  • DXが進んでいる米と独は、外部の人材を活用する傾向がある

図表1-2-4-24

出典:「令和3年版情報通信白書」(総務省)

5. ビジネスモデルの見直し

市場がグローバル化する昨今「ディスラプター」と呼ばれる企業が国内外を問わず出現しています。企業が生き残るためには、大きな力を持つディスラプターたちに対抗しなければなりません。世界的に覇権をにぎっていた企業がディスラプターに敗北する事例が次々と生まれています。デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築するディスラプターは、既存の企業にとって大きな脅威です。

アンケート調査の結果を見ると、日本企業はデジタルの活用が不十分と言わざるを得ません。中国やインドなどの新興国では、デジタルの急速な普及とともに新たなデジタル企業が登場し、世界への進出を図っています。

世界で躍進するディスラプターたちに対抗するには、既存企業も新たなデジタル技術を導入・活用し、ビジネスモデルを変革させることが重要です。

6. レガシーシステムの刷新

日本企業のDXを阻害している要因の1つにレガシーシステムの存在が挙げられます。レガシーシステムは、従来の業務の進め方を前提に構築されたものです。日本企業には、クラウドサービスなどの新時代のシステムを導入・活用した業務改革が必要です。

ただし、レガシーシステムの代わりに導入したシステムのレガシー化には注意しましょう。

日本企業からディスラプターが生まれるために

総務省の「令和3年版 情報通信白書」をもとに日本企業の現状と今後のDX戦略を見てきました。日本政府がDXの推進を急いでいる理由は、以下の2つです。

  1. 日本企業の競争力を高めるため
  2. 生産性を向上させ、経済成長を図るため

DXに取り組んでいる日本企業は、徐々に増えています。しかし、世界規模では「日本企業のDXは後れている」と言わざるを得ません。デジタルの力で新たなビジネスモデルを築くディスラプターたちの勢いは、今後も加速します。

日本企業からもディスラプターが生まれることが期待されています。

ディスラプターを目指す企業には、以下の変革が求められます。

  1. 社内の意識改革
  2. 推進体制の構築
  3. 制度・慣習の改革
  4. 人材の育成・確保
  5. ビジネスモデルの見直し
  6. レガシーシステムの刷新

大切なのは、現状を把握し、適切な解決策を打ち出すことです。DXの成功を目指して一歩ずつ歩んでいきましょう。

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