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中小企業が小規模な変革から始めたDXの成功事例 老舗旅館「陣屋」

DXの課題

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いて新しい価値を生み出すイノベーションのことです。仕事の効率化などの観点から注目されています。しかし、多くの企業でDXがうまくいっていないのが現状です。ベイン・アンド・カンパニーの調査によると、95%の企業は期待通りの成果を出せていませんでした。

何がDXの成功を妨げているのか。要因の1つは、「大規模な変革から初めてしまうこと」です。会社全体を巻き込むプロジェクトを立ち上げようとしても、周囲の理解がない状況ではDXを進めることが難しくなります。

そこで『いちばんやさしいDXの教本』の著者である進藤圭氏が薦めているのが、「アーリースモールサクセス型DX」です。小さくとも早い成功を目指すDXを指しています。小規模な変革から始め成功体験を積むことで、DXがもたらす利益を実感することができるため、取り組みを会社へ広げやすくなります。

本記事では、小規模な変革から始めDXに成功した事例として、旅館「陣屋」を紹介します。

画像出典:陣屋 – 鶴巻温泉 元湯 陣屋 旅館 (jinya-inn.com)

改革前の状況

「陣屋」は1918年に開業した老舗旅館です。しかし、バブルが崩壊したころから売り上げが減少し、宿泊料金を下げなければなりませんでした。その結果2009年には7000万円の赤字となり、借入金は10億円に上っていました。

倒産寸前とまで言われた状況の中、社長に就任したのが宮崎富夫氏でした。会社の状況を見た宮崎社長が気づいたのは、ずさんな管理体制や従業員同士の情報伝達の不備です。宿泊客の要望に応えられず、クレームにもつながっていました。

ちいさい資本からのDX

こうした問題を解決するために、宮崎社長はITを使うことを決めました。しかし資金は十分にありません。パッケージソフトを探したものの希望通りのものがなかったため、ソフトを自社開発することにしました。

費用を最小限に抑えなければならないという制約の下で、宮崎社長が目を付けたのはクラウドサービスです。これならば使ったぶんだけ料金を支払えばよいため、費用を抑えることができます。

折よく、旅館のフロント係に応募した人がシステムエンジニア経験者であることがわかり、システムの開発を担ってもらえることになりました。使うクラウドとしては顧客管理ツールの「Salesforce」を選択し、開発を進めました。

陣屋システムの効果

こうして開発されたシステムは「陣屋コネクト」と名付けられ、2010年から運用されました。最初は予約システム機能しかありませんでしたが、後に勤怠管理、業務連絡、原価管理などの機能も付けられました。

伝達事項が記録されるようになったことで「言った」「言ってない」などの伝達ミスはなくなり、人員配置が効率化したためシステム導入前の半分の従業員数で事業を支えられるようになっています。

人員配置や業務の効率化により、宿泊料金を上げたことで、IT導入前に比べ1億円売り上げが増えました。その結果、赤字だった経営状況の黒字化に成功しています。

近年ではAIを使って駐車場に停めた車のナンバーを認識し、顧客情報と照合して誰が来たのかを従業員に自動で連絡するシステムも作られています。このため顧客の名前を呼んでおもてなしできるようになり、顧客満足度の向上につながりました。

改革は全国へ

この改革で陣屋は自社の経営改善に成功したのみならず、社会にまで影響を与えました。陣屋コネクトが外販され、日本全国の旅館やレストランなどで利用されるようになったのです。2021年2月には400以上の施設で利用されるようになり、経営の改善に貢献しています。施設の中には、導入後1年で売上高が144%に達したものもありました。

陣屋コネクトは、旅館経営の効率化や地域観光の雇用の創出に貢献したなどの理由から革新的な優れたサービスであると評価され、2018年の『日本サービス大賞』で総務大臣賞を受賞しました。

陣屋は予約システムの搭載という小さな範囲からITの使用を始め、会社の経営改善に成功し社会にまで大きな影響をもたらしました。そのため、陣屋の事例はアーリースモールサクセス型DXと言えるでしょう。

【参考文献】

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